『小金井通信』 2024年4月 ◆「月刊ライト」2007年7月号

【アーカイブ】  「月刊ライト」2007年7月号  (取材・小柳博之)


「ワイド・インタビュー」
新川浩嗣金融庁総務企画局企画課保険企画室長に聞く
 
《プロフィール》しんかわ・ひろつぐ 昭和62年4月大蔵省入省。大臣官房調査企画課が振り出し、大蔵省時代の金融セクションは証券局を2年経験した。ちょうど損失補填問題が表面化したときだった。金融庁には3年前、平成16年7月に総務企画局信用機構室長として赴任。翌年7月市場業務室長兼調査室長、そして昨年7月信用機構企画室長、信託法令準備室長、保険企画室長を兼職。信用機構室では、金融機関の破綻処理スキームや資本注入など信用秩序の維持に関する制度を担当した。東京大学経済学部卒業。昭和38年4月生まれ、44歳。


 銀行窓販は、今年12月に全面解禁の見通し。また根拠法のない共済団体は、来年3月までに少額短期保険業か、保険会社かどちらかを選択しなければならい。
 保険業界はこの2年来、保険金の不払い・未払い問題で明け暮れてきたが、そろそろ心機一転巻き返しを図るときである。少額短期保険業ばかりか、郵政保険会社など新規参入組は虎視眈々と、保険会社の牙城を崩そうと狙っている。
 根拠法のない共済の法整備に携わるとともに、銀行窓販全面解禁に向け、このモニタリングに当たる金融庁総務企画局企画課の新川浩嗣保険企画室長に、現状についてお話し頂いた。      (取材=編集部・小柳)
 

――新川室長は、少額短期保険業の法整備や契約者保護制度の見直しに携わっていますが、こうしたお話しから伺いたいと思います。
 新川室長: 信用機構室長時代に、少額短期保険業の整備に関するお手伝いをしました。このきっかけは、総務省がいわゆる無認可共済(根拠法のない共済)に関する実態調査を行ったことです。この結果、総務省から〝行政上の対処が必要〟と報告を受けました。
 根拠法のない共済は、保険業法の適用はありませんが、保険業に類似した様々な活動を行っています。金融審議会の議論でも、これに対応する必要があるとの結論を得ました。
 端的に言えば、このままでよいという意見が出た一方、全て既存の保険会社と同様に規制すべきという意見も出ました。また、この中間的な規制にしてはどうかという意見もあり、最終的には少額の保険や短期の保険を取り扱うのであれば、既存の保険会社より軽い規制でよいという考え方で一致し、従来の保険会社に比べて規制の軽い制度になりました。
 ただし、施行に当たっては〝急激な規制導入とするべきではない〟との判断が大勢を占めたため、何段階かの経過規定を設けました。これが今回の法律改正の特徴です。
 具体的には、法律の施行は昨年4月でした。このときに保険業法の適用となるべき事業者には、6か月以内に届け出を行ってもらうことにしました。つまり、時間的な猶予規定を設けたわけです。届け出期限は昨年9月末でした。
 また、施行から2年間で本格施行することにし、その間に事業者の対応を決めてもらうことにしました。根拠法のない共済事業者に保険業法を適用するわけですから、2年間で保険会社免許を申請するか、或いは少額短期保険業として登録するかを検討してもらうことにしました。そのための移行準備期間という考え方です。
 さらに、施行後5年は再保険スキームのある事業者に対して、例えば少額短期保険業の損害保険商品の引き受け上限は1000万円ですが、再保険スキームの上乗せ分を加え5000万円まで認めることにしました。これも一種の経過規定です。他方、施行後5年以内の見直し規定も設けました。徐々に、段階的に監督を実施していくという考え方です。
 
――わが国では、保険と共済は区別して考えますが、欧米ではこうした考え方は必ずしも一般的でないようにも思います。とはいえ、小零細共済もあり、その一方、保険会社に伍して事業を運営している共済もあります。共済を議論するに当たっての基本的な考え方を教えてください。
 新川室長: 根拠法のない共済には、いわゆる友愛組合的な小規模共済もありますが、こうした共済ばかりではありません。わが国の共済は、農協共済や全労災のように法律に基づき、また監督大臣もいる、いわゆる制度共済と根拠法のない共済の二つに大別できます。
 今回の議論のターゲットは、後者の根拠法のない共済でした。監督者がいないわけですから、それに伴う問題について議論を深めたわけです。
 ですから、制度共済に関する議論はいったん脇に置き、まず規制のない共済をこのまま放置しておいてよいかについて議論しました。
 
――根拠法の有無に関わらず、きちんと事業を展開する事業者とそうでない事業者が存在します。翻って言えば、いくら法律を作っても、この網に従わない或いは網から逃れようとする一群もいると思います。まして根拠法のないことを隠れ蓑にするような団体に法律を準拠させることは並大抵ではないと思いますが、こうした事業者にはどう対処していく方針でしょうか。
 新川室長: ご質問は、無免許或いは無登録事業者を指しているのでしょうか。しかし、まだ免許も登録も始まっていませんから、今おっしゃった事態には直面していません。
 保険業法の適用になるところを無登録で営業を行っているとすれば、罰則の対象となります。こうした事例には、きちんと対応していかなければなりません。
 
――過去には、〝オレンジ共済〟のように悪質な共済団体もありましたが……。
 新川室長: そうしたケースは全く念頭に置いていないとは言いませんが、あのような事件を起こした団体への対処については、保険業法改正を持ち出すまでもないと思っています。出資法違反や詐欺罪など他にも取り締まる法律があります。
 根拠法のない共済の法制化は、こうした悪徳業者の排除だけに限定した整備ではありません。多様化し、様々な形態へと移行している共済がその数を拡大する中で、伝統的な保険会社の事業と各種共済が行う事業の区別が付き難くなっているため、契約者保護の目線でこの両者を統一した基準で契約者保護を図ろうという考え方でした。
 端的に言えば、人を騙そうと考える人たちは論外です。しかし、そうでない場合でも、契約者保護は必要になってきます。例えば、保険の事業運営の特徴として、契約者に約束した保険金についてはきちんとした支払い態勢や財務の健全性がなければ、たとえ善意の運営理念に貫かれていたとしても、十分な契約者保護が図れないケースがあります。こうした場合、それが共済であれ、また保険であれ、契約者保護の必要性は同質です。
 
――悪質か否かを問わず、根拠法のない共済の数を正確に把握することは案外難しいように思います。また当初予測していた登録等の進捗状況と誤差が出るようなことはなかったのでしょうか。
 新川室長: 実際に届け出を行って頂いた数は400弱です。これは、総務省の実態調査などを通じて予想された範囲内です。想定を大きく上回ることも下回ることもありませんでした。
 金融審議会の報告も指摘する通り、根拠法のない共済事業者はいくつかの選択の方法があります。例えば少額短期保険業を選択する、また保険会社を選択する、或いはグループ保険の形で保険会社に引き受けを任せる、さらにこの両者を組み合わせるといった選択肢です。みなさん、こうした中から選択することを検討しているようです。
 ただし、本格施行に向けては〝未定〟という事業者もあります。個々により様々な事情もあるでしょうから、金融庁としては、ご相談があれば十分に対応していきたいと思っています。
 
――セイフティーネット(契約者保護制度)の議論についてもお話し頂きたいと思います。
 新川室長: セイフティーネットを議論していた当時、私は担当ではありません。したがって改正作業を直接手がけたわけではありませんが、あのときはまず、生命保険に対する政府保証及び政府補助のあり方について、延長するか否かを議論しました。
 また、保険会社の破綻処理といっても、生保と損保では契約の取り扱いが異なってしかるべきという議論でした。生保は長期契約ですし、再加入の困難性が指摘されます。一方、損保は早く新しい契約へと乗り換えたほうがよいのではという議論でした。したがって3か月以内であれば、責任準備金の全額を保護するが、それ以降は8割としました。一律に責任準備金の9割を保証する生保とは異なる扱いです。
 なお、改正法には、契約者保護制度についての見直し規定があります。いずれかのタイミングで現行制度のままでよいかについてさきほどの政府補助の取り扱いも含めて見直しを議論する時期が来るでしょう。
 具体的なスケジュールが念頭にあるわけではありませんが、見直し検討期限は平成21年3月末です。法律で規定されていますから、必ず検討は行わなければなりません。
 この問題は結局、保険会社の破綻にどのような対応を行っていくべきかというテーマです。ですから、保険業を巡る環境変化を考慮することも大切かもしれません。例えば、資産運用環境の変化など当時と現状ではかなり異なります。
 
――ソルベンシー・マージンの導入後、多くの保険会社が破綻しました。そして破綻の主因は、経済的な要因や国の施策だったようにも思いますが……
 新川室長: 経済環境全般の責めを誰が負うかは、少し次元が違う話ではないでしょうか。社会や経済には様々なリスクがありますが、とくに保険会社はこうした諸々のリスクに対して万全の備えが必要です。現にきちんと対応していた保険会社もあるわけです。
 しかし、そうはいっても制度的な対応は必要です。万が一、保険会社が破綻したときの仕組みについては考えておかなければなりません。粛々と機能する破綻処理スキーム、セイフティーネットをあらかじめ作っておくことは大切です。
 
――当時、損害保険会社も2社破綻しました。この破綻処理をみて言うわけではありませんが、破綻規模からすると、大手損保であれば契約の引き継ぎはできたと思います。そして、そのほうが八方丸く収まったようにも思いますが……
 新川室長: 公的なセイフティーネットであれば、たとえどんな場合も平等に機能することが要求されます。しかし保険契約を移転するにしろ、また誰かが契約を引き継ぐにしろ、このときに責任準備金に見合う資産がなければ責任準備金はカットされます。このカットに当たっては、あらかじめ定められた通りに一定の基準で実施するのが公的なセイフティーネットです。
 これを超えて、個々の保険会社間の関係で、さらに各種救済策や組織再編に踏み切るとしたら、それは個社の経営判断にほかなりません。
 
――いよいよ年末から銀行窓販は全面解禁となります。このモニタリングも保険企画室の担当ですが、現状についてお話し頂きたいと思います。
 新川室長: 銀行が保険販売するに当たっては、それが仮に何らかの規制もなく行われれば、種々の弊害があろうという前提で、この議論は行われてきました。ですから、弊害があるとすれば、この弊害を防止する措置、とくに融資先に対する販売規制を中心に弊害防止措置を盛り込み、弊害防止措置がワークするか否かをモニタリングする必要がありました。
 一昨年12月、銀行窓販商品の第3次解禁を行いました。平たく言えば、これは全面解禁に向けての試行期間の役割も担っていました。したがって、第3次解禁商品について弊害防止措置が上手く機能するかをモニタリングしてきました。
 このモニタリングは、弊害防止措置が過不足ないかどうかをチェックするものです。したがって、弊害が許容範囲内の状況でワークしていれば予定通り解禁となり、当初想定していなかった弊害が表面化すれば見直しということになります。
 法令上のスケジュールは今年12月解禁ですが、あくまでもモニタリングの結果次第です。弊害があるか否か、弊害防止措置が機能しているか否かを見極めてからです。モニタリングを始めてちょうど1年半が経過しましたが、これまで実績(数字)を中心にチェックしてきました。今後、さらに中身に立ち入った質的な側面についてもウオッチしていきたいと思っています。
 ただし、現状では、最終的にどう結論付けるかを判断するに足るだけの材料は集まっていません。いわば情報収集途上といったところです。
 
――この最終判断は、保険企画室での合議のような形を取るのですか、それとも外部の第三者に諮ってということになるのですか。
 新川室長: モニタリングは、われわれ金融庁で行っていますが、最終的にどういう形で決めるかはその決め方も含めて今後の検討しだいです。
 
――損保会社の販売チャネル政策は、伝統的に柔軟性があり、たとえどのチャネルであれ、とにかく販売力を優先する側面を有しています。その一方、生保の販売網は、セールスレディー主体だったため、銀行が〝融資〟という優越的な立場を利用して圧力販売すると、販売網の生活権が脅かされるおそれがあり、銀行窓販を懸念するようにも思います。圧力販売は、もちろんあってはならないことですが……
 新川室長: このモニタリングは、銀行窓販全面解禁の際の弊害防止措置がワークするか否かを事実に基づき判断するために行っています。ですから、いろいろな事情はあるにせよ、モニタリングによって様々なデータを集めて、このデータに沿って議論することがその基本です。
 
――懸念材料を上げると、モニタリングはいわばお試し期間です。つまりお試し期間中に敢えて無謀な行為を行うはずもなく、圧力販売はむしろ解禁後と考えるのが妥当ではないでしょうか。
 新川室長: もっとも大切なことは、表面的に表れる数字だけではなく、実際の販売や勧誘の現場でどういうことが行われているか、或いはそれに対する管理態勢です。こういった質的な要素も十分にチェックすることが大切です。
 ですから、銀行や保険会社に対して質的な面での販売態勢や運用状況についてヒアリングを行っていきたいと思っています。全国の金融機関が対象ですから、この細目はまだ詰めていませんが、いずれにしろ財務局の協力なども仰ぎながら進めていきたいと思います。
 
――金融庁では今年3月末にクーリング・オフ制度に関する保険業法施行令の一部改正案及び保険業法施行規則の一部改正案を公表しましたが、改正の柱についてお話ししてください。
 新川室長: クーリング・オフ制度は平成8年から実施されています。しかしその後、銀行窓販を始め販売チャネルが多様化してきています。したがって、こうした実情に沿ってクーリング・オフ制度の見直しが求められていました。これが改正の趣旨です。
 ひと口に言えば、保険を購入する準備ができていないお客が保険申し込みを行った際のクーリング・オフのあり方です。もちろん商品についてきちんとした説明が行われ、これに同意した上で契約が常になされなければならないことが大前提です。その上で、あとで気が変わり、申し込みを撤回したいと思ったときにどうするかという問題です。
 こうした場合の典型事例としては、例えば営業職員などがお客を訪問した際に契約申し込みを行ったときです。また保険募集の用件を告げられることなく、銀行等のカウンターでいきなり保険募集の勧誘を受け、申し込みをしたケースです。事前に保険に加入する意思がないままに、たまたま保険募集を持ちかけられ、契約に至ったケースです。このケースも、さきほどの訪問販売に類似した状況です。したがって二つは、同じ扱いにする必要があると考えました。
 また、保険料の初回振り込み後のクーリング・オフができないという取り扱いについても、様々な指摘がなされてきました。販売チャネルの多様化により、居宅で保険料払い込み手続きが完了するケースも出てきていますが、こうしたケースなども、もともと加入する意思はなかったものの、いろいろ考えるうちに加入の申し込みをしたケースに似ています。ですから、クーリング・オフ適用が必要だと判断しました。
 さらに、変額保険などクーリング・オフできない場合でも、ペナルティーを取ることなく運用成果を契約者に返す仕組み「特定早期解約制度」を提案しています。これらの考え方に対する意見募集を現在行っているところです。
 
――例えば、保険始期の考え方は、従来型の入金ベースから申込書の入力ベースまで幅広い考え方ができますが、申し込みとクーリング・オフの関係も複雑になりつつあるのでしょうか。
 新川室長: クーリング・オフ制度は、申し込みと書面交付がキーワードです。要するに、申し込み時点か、クーリング・オフに関する書面交付から8日間以内であれば、クーリング・オフ可能という考え方です。
 通常、申し込み時に即入金とは限りません。また、申し込み日イコール保険責任始期とも限りません。さらに契約日が別になることもあります。法律用語で厳密に言えば、保険契約が成立していないときは申し込みの撤回、保険契約が成立しているときは契約の解除となります。ざっくばらんに言えば、申し込み日から8日以内に解約を申し出ると、支払った保険料が返ってきます。
 
――金融改革プログラムにより保険分野にもいくつかの宿題が出されましたが、積み残しの課題は残っているのでしょうか。
 新川室長: 大きな流れとして、課題はほぼ消化しています。しかし、今後フォローアップする必要はあるかもしれません。金融改革プログラムは、ひと区切りついたところです。
 保険企画室の使命は、契約者保護です。したがって常にさまざまな見直しを行っていかなければなりません。
 
――保険金の不適切な不払い・未払い問題等で明け暮れるこの2年ほどの保険業界ですが、こうした関連での制度改正、法律改正の予定はありますか。
 新川室長: 保険会社の支払い態勢に何か不備があれば、現行保険業法に基づいて業務改善その他を命ずる措置を講じています。また、この実態について全容解明のために必要であれば報告徴求という法律上のツールを用いることも可能です。その他諸々の募集に関する規制もあり、現状でも制度上のツールは一通り揃っています。
 しかし、制度面においてこれ以上何かが必要か否かについては、とくに予断を持たずに考える必要があるかもしれません。ただし、今は一連の全容解明と業務全般の見直しの途上です。現時点では具体的な方針は決まっていません。   (了)

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