『小金井通信』 2024年4月

●金融庁監督局保険課、「損害保険業の構造的課題と競争のあり方に関する有識者会議」初会合を3月26日に開催、不祥事が頻発する損害保険業の構造的な課題及び適切な競争の阻害要因に関する制度・監督上の検討に着手

(取材・小柳博之)

 金融庁は3月26日16時から、中央合同庁舎第7号館12階共用第2特別会議室で「第1回損害保険業の構造的課題と競争のあり方に関する有識者会議」を開催、会議の模様をYouTube配信した。
 金融庁は、昨今の、損害保険業を巡る保険金不正請求問題及び保険料調整行為問題を受け、関係する保険会社や保険代理店に対し、業務改善命令を発出するなど一連の対応を行ってきた。今回「損害保険業に関する有識者会議」を設置し①損保会社、②保険代理店、③企業間の関係や、それを踏まえた商慣習において不適切行為の誘因となる構造的な課題及び適切な競争の阻害要因があることから、わが国損害保険市場における顧客本位の業務運営の徹底及び健全な競争環境の実現といった観点から、主として制度・監督上における対応を検討する。
 座長は、洲崎博史同志社大学大学院司法研究科教授。メンバーは8名(大村由紀子弁護士/金岡京子東京海洋大学理事・副学長/嶋寺基弁護士/滝沢明子デロイト・トーマツ・コンサルティング執行役員/中出哲早稲田大学商学学術院教授/永沢裕美子日本消費生活アドバイザー・コンサルタント・相談員協会代表理事副会長/増山啓三菱重工業事業リスク総括部リスク管理リスクマネージャー/山下徹哉京都大学大学院法学研究科教授)。
 なお、オブザーバーとして、日本損害保険協会、外国損害保険協会、生命保険協会、日本損害保険代理業協会、消費者庁、経済産業省、国土交通省が参画。
 初回の議事は、三浦知宏保険会長が事務局説明資料(Ⅰ.保険金不正請求事案 Ⅱ.保険料調整行為事案)について、白井祐介損保協会一般委員会委員長(あいおいニッセイ同和損保取締役専務執行役員)が保険料調整行為・保険金不正請求等の要因、及び日本損害保険協会としての取り組みについて、それぞれ概要説明を行ったのち質疑に入った。
 三浦保険課長は、保険金請求事案の議論のたたき台として、
 ① 保険業法では保険会社が保険代理店を適切に指導・管理することを求めているものの、大規模乗合代理店(ビッグモーター等)に対しては実効的な指導・管理が行われていない。実効的な指導・監督を確保するにはどうあるべきか。保険代理店の従業員(使用人)の品質向上をどのように図るべきか。
 ② 大規模乗合代理店の影響力が高まる中、損保会社がそうした保険代理店との関係を優先すると、保険金支払い査定が適切に行われないおそれがある。損保会社の支払い管理態勢をどうすると強化できるか。
 ③ 損保会社の保険代理店手数料ポイント制度では規模や増収面を重視していた。これが業務品質を軽視する誘因を招くとともに、業務品質を伴わない大規模乗合代理店(ビッグモーター等)に不適切なインセンティブを与えていた。損害保険代理店の適正評価を行うにはどのような見直しが必要か。
 ④ 乗合代理店は保険募集時に複数の保険商品を比較推奨する。しない場合には、当該提案理由を説明する必要がある。しかし、ビッグモーター事案では、入庫紹介の実績等の結果に基づき、特定の保険会社:損保ジャパンの商品を顧客に推奨し、別の理由を装っていた。保険業法が求める比較推奨販売を適切に実施するにはどのような見直しが必要か。
 ⑤ 損害保険代理店が自動車修理工場を兼業すると、損害保険代理店による利益相反行為が行われやすくなり、保険契約者の利益が損なわれるおそれがある。利益相反が生じる業務の兼業を禁止するべきか。兼業は認めつつ利益相反を防止する措置を実施するべきか。後者の場合には、どのような措置が考えられるか。
 を提示した。
 また、同課長は、保険料調整行為(カルテル)等事案の議論のたたき台として、
 ① 共同保険は最も安い保険料を提示した保険会社が幹事社になり、当該保険料を基準として組成するビジネス慣行(価格調整に陥りやすくなる)が存在するため、独占禁止法等の抵触リスクが発現しやすい環境である。適正な競争環境を整備するには、どのような対応が必要か。
 ② 企業向け保険契約の入札等では、政策株式保有や本業支援など保険契約の条件以外の要素が少なからずシェアに影響を及ぼす場合があった。こうした慣行をどのように是正するべきか。
 ③ 営業部門が幹事やシェアの維持を求められ、リスクに応じた適正な保険料を提示することが困難になる中、適切な契約内容の提案を含め実効的な保険引き受け管理態勢を確立するにはどうするべきか。
 ④ 企業内保険代理店は、企業グループに属し企業の元従業員等を受け入れる一方、損害保険の保険代理店として手数料を得るなどその位置付けが不明確である。企業内保険代理店のあるべき姿をどう考えるべきか。
 ⑤ 今回、損害保険会社の従業員及び保険代理店の社員の独占禁止法に関する知識不足が明らかになった。適切な法令遵守態勢をどうすると確立できるか。
 を提示した。
 さらに、三浦保険課長は、二つの事案に共通する論点として、
 ① 損害保険会社の保険代理店への本業支援(入庫紹介、物品・サービスの購入、社員の出向等)が、保険代理店による保険商品の比較推奨を歪ませ、保険契約者の適切な商品選択が歪められていたおそれがある。保険会社による保険代理店への本業支援のあり方をどう考えるべきか。
 ② 金融庁による保険会社及び保険代理店への実効的な検査・監督は、どうすると確保できるか。
 を提示し、活発な意見交換を促した。
 有識者会議の報告書は、今夏にも取りまとめられる。