『小金井通信』 2025年11月 ◆「週刊インシュアランス」2019年4月
【アーカイブ】 「週刊インシュアランス」 2019年4月(小柳博之)
考察『保険募集における本来あるべき姿/適正な形/利用者保護の盲点』―消息筋の提言を踏まえて―
昨春から断続的に掲載してきた、①窪田泰彦『ほけんの窓口グループ』会長兼社長、②勝本竜二『アイリックコーポレーション』会長兼社長、③大石正明『大石保険研究所』代表、④大塚武敏『そうあい保険事務所』代表取締役、⑤平賀暁『マーシュブローカージャパン』会長(日本保険仲立人協会理事長)/副島昭弘『アームコンサルティング』代表取締役(日本保険仲立人協会副理事長)らの取材を通じて浮かび上がった、現下の「保険募集制度の課題」及び「保険商品のあり方や団体保険取り扱いにおける疑問」を消息筋にぶつける中で得た考察を提示する。(取材・小柳)
●当初の狙いとの相違
平成7、8年の保険業法改正(1995年6月に成立した改正保険業法は、外国保険事業者に関する法律及び保険募集の取り締まりに関する法律を含めて一本化し、保険業法施行令及び保険業施行規制として成立。翌1996年4月に施行)で新たな募集制度として導入した保険仲立人制度は、その後20年の時を経て参入事業者数は50社に満たず、当初意図した制度には至っていない。保険仲立人制度の見直しの際には、金融審議会などオフィシャルな場での議論が前提となるものの、同市場におけるプレーヤーであるブローカー、保険会社、顧客のみならず、監督当局もその一員として為すべき役割はある。
欧米に比べて高いと指摘される保険仲立人の供託金や、欧米では顧客から得ている手数料のあり方問題は、監督当局の介在なくして解決できない。他方、保険会社の協力なくして越えられない課題としては、特約の自由化や手数料の取り方がある。また、ビジネス機会や環境を整備する中でどうするとビジネスとして成立するかについては、ブローカー自身が考えなければならい。さらに、リテール分野で「顧客がブローカーに相談する流れを作る」ことが欠かせない。
ひと口に言えば、国や政府がそうした制度を作り、ブローカーや保険会社が制度に則った環境を整備し、ブローカーがビジネスのあり方について考え顧客に提示したとき、ブローカー制度は機能する。
●ブローカー活性化への期待
業界団体としての日本保険仲立人協会が国や政府に対して、ブローカーの募集制度を改善するよう要請することはもちろん、国や政府がそれらを踏まえ、速やかにブローカーの募集環境を整備することは喫緊の課題と言える。保険会社からすると、自らが掌握し易い募集制度がベストであり、現状の募集制度に不都合を感じていないことを考慮すると、ブローカーの募集制度が改善する余地は限定的にならざるを得ない。例えば生・損保の取り扱いが一定以上に達した場合、「生・損保合算で○○社以上を取り扱う保険代理店は保険仲立人に転換できる」と施行規則等に規定すると、保険仲立人制度は活性化する。
●一社専属制に風穴
損保会社の研修生出身専属代理店に対する乗り合い規制は、頑な対応と言わざるを得ない。1996年4月に施行した保険業法改正では、一社専属制に「クロス特例」と「複数使用人特例」を認めた。これにより、損保代理店に認めていた乗り合いが生保代理店に拡大することは想定外だった。二つの特例は、生・損保の子会社方式による相互参入を実現する際、損保の生保子会社は親会社の損保代理店を募集チャネルとして活用する以外に選択肢はなく、認めざるを得なかった。
保険代理店は、生・損保兼営禁止規定が適用されないため、損保代理店ではアリコジャパンなど外資系生保代理店として募集を行っていた。監督当局が損保会社に生保子会社の新設を促したことで、損保代理店に「クロス特例」を認め、これが生保の一社専属制に緩和をもたらし、複数の募集人が存在することを条件として「複数使用人特例」で乗り合いを容認した。二つの特例から、「比較募集」と「乗合代理店」を活用した来店型保険ショップ(『保険クリニック』、『ほけんの窓口グループ』ほか)が誕生。保障内容や保険料が生保会社により異なることを踏まえた比較販売は、利用者ニーズを捉え、その後拡大の一途を辿る。
●乗合代理店と対峙するブローカー
生・損保相互参入の副産物として、来店型保険ショップ(乗合代理店)が誕生したことで、代理店と並ぶ新たな担い手として期待したブローカーと対峙する事態を招来した。2016年5月施行の保険業法改正では、前者に対する規制を強化し保険の信頼性確保に向けて募集の基本的ルールを創設、意向把握・情報提供義務や保険募集人に対する体制整備義務を課した。一方、後者は保険市場の活性化に向けて規制を緩和した。
今後、ブローカーと代理店、保険会社及び関係業界団体、監督当局がオフィシャルな場で討議する論点は、「供託金の引き下げ」と「ブローカー及び乗合代理店で類似する比較推奨販売とベストアドバイス義務」が想定される。比較推奨販売の実効性については、監督当局の検査・監督を通じて検証し、仮に形骸化が判明した場合、平成25年6月の『金融審議会ワーキング・グループ報告書』では、手数料開示について議論する留保条件が明記されている。ブローカーが媒介手数料を顧客から直接受領することについては、「保険契約者保護や募集実務の観点から問題がないかを含めその影響や課題について引き続き検討する」よう求めている。
もう一つの論点は、「顧客がブローカーに相談する流れを作るにはどうあるべきか」。保険会社が販売をコントロールし易い代理店を重視する姿勢から転換することは考え難い。生保会社はこれまで、一社専属の営業職員チャネルを販売網として活用し、代理店チャネルを加味することはなかった。ところが、大手生保が代理店チャネルを買収する時代へ激変した。こうした流れは、消費者行動によってもたらされたにほかならない。「保険は、顧客が流れを作る時代」へと変遷した。
乗合代理店の比較推奨販売に疑問符が付くとき、或いは実効性がないと顧客が感じたとき、ブローカーに傾く流れが想定される。顧客が中立公正なベストアドバイスを求めたとき、顧客がブローカーに向かう潮流ができ、こうした状況下で保険会社がブローカーに協力的になったとき、乗合代理店がブローカーへと看板を掛け変える事態が想定される。消費者行動の変化に伴い、新たなプレーヤーは芽生える。
●商品取り扱いの適正なスタンス
収入保険料数億円規模の乗合代理店では、一社推奨販売を選択するケースが多い。そうした傾向は、生保募集で顕著だ。改正保険業法を遵守すると、比較推奨販売を行うより取り扱いに習熟した特定保険会社商品を前面に押し出したほうが手堅いと考える様子が伺える。こうした取り扱い方は、顧客サイドに立っているのかと疑問符も付く。ブローカーが履行しなければならない『誠実義務』とは、対極的な募集行為と言えなくもない。2016年の改正保険業法が実効性を伴う法律改正として施行した経緯を踏まえると、将来にわたって実効性を担保する必要がある。
あるブローカーの指摘によると、定期保険の価額は「保険料が安い会社と高い会社では2.5倍の開きがある」。乗合代理店は、低廉な保険に傾斜し取り扱う利点を有している一方、高い保険しか取り扱えない専属代理店や募集人は、その事実を伏せて販売することになりかねない。乗合代理店は、手数料等を加味した取り扱いを行う余地を残しており、顧客が保険価額と商品概要を比較・分析できないことを考慮すると、保険募集では専属より乗り合い、乗合代理店よりブローカーに一日の長がある。
日本のブローカーは、エージェントと同様に保険会社から手数料を得る仕組み。ブローカーは契約者から、「保険会社から手数料を得ている以上、中立公正ではない」としばしば指摘を受ける。欧米並みに契約者から手数料等を得る制度を採用するべきかなど手数料のあり方について、再検討する余地を残している。
●『FD』が問い質すもの
保険会社から多額のボーナスやインセンティブを得たと判断した保険代理店や保険募集人を処分する考え方は、現行行政には馴染まない。ルール・ベースからプリンシプル・ベースへの転換は、「法律の条文に列挙されている事項さえ守ればよい」と云う従来の考え方から、「原則を理解し行動しなさい」と云う考え方への変更にほかならない。プリンシプル・ベースの理解と浸透は一筋縄ではなく、対話型の行政が欠かせない。手数料問題は、手数料を支払う側と手数料を得る側の二つの側面で考えるべき。手数料を得る側の論理として、「手数料は経営の根幹であり、得られる手数料を貰うのは当然」と原則論が提示されたとき、これを覆す論拠は見当たらない。
金融庁が平成29年3月に公表した、金融事業者が顧客本位の業務運営におけるベスト・プラクティスを目指す上で有用と考え定めた『FD:顧客本位の業務運営に関する原則』の7には、「金融事業者は、顧客の最善の利益を追求するための行動、顧客の公正な取扱い、利益相反の適切な管理等を促進するように設計された報酬・業績評価体系、従業員研修その他の適切な動機づけの枠組みや適切なガバナンス体制を整備すべき」と明記されている。
『FD』7は、事業主である保険代理店に適用されることは言うまでもないが、監督当局はコミッションを支払う保険会社にも「自らが支払う手数料やボーナス・コミッションが貰い手である代理店等のFDの行動原理にどういう影響を与えているのかについて考えるべき」と、法律とは別の観点で問い掛けている。営業推進的な観点でむやみやたらに支払う手数料の源泉は、「顧客から得た保険料であることを認識するべき」と云う指摘にほかならない。
●団体向け保険等の取り扱いのあり方
地方自治体や企業、労働組合、学校など各種団体では、団体保険制度を構築することが多い。一方、生協を持たない小規模な学校や専門学校と提携し、教職員及び学生向け傷害保険等を提供する代理店もある。『文部科学省共済組合○○保険』或いは『専修学校各種学校学生生徒○○保険』、『全国○○大学附属学校PTA連合会○○保険』は、これらに該当する。各種団体が自主的に運営する共済及び1000人以下を相手方として行う生命保険・損害保険に類似した保障(補償)事業とは、一線を画すあり方と言える。
特定者を対象として法律の根拠なく保険を引き受けていた共済組合の中でも、根拠法を持たない共済(無認可共済)は2006年4月少額短期保険への転換を余儀なくされ、2008年以降新規募集を停止した。
監督当局は、商品届出や少額短期保険業者の登録に際し、顧客保護の観点を重視する。こうした趣旨が徹底されていなかった時代に認可取得した特定商品の取り扱いを継続している代理店もある。特定代理店が特定マーケットを享受する不公正さを指摘するべきか、営業特権と見るべきかにより判断は異なる。たとえば入学前のオリエンテーションなど慌ただしい中で、学生や父兄に対する適正募集は確保されるか、顧客保護の観点は貫かれるか、或いは雑な募集に関する規制に該当しないかなど疑問符も付く。


