『小金井通信』 2024年7月 ◆「月刊ライト」2004年5月号

【アーカイブ】「月刊ライト」2004年5月号


 八並堯夫 共立インシュアランス・ブローカーズ社長に聞く
 
 保険仲立人(ブローカー)制度が、わが国に誕生したのは1996年である。改正保険業法の施行により導入された。1998年夏の損害保険料率の完全自由化後、ハンドリングが格段に増したものの、わが国の保険流通の9割は代理店販売が占め、ブローカー制度が必ずしも当初の期待に沿った成果を収めているとは言えない。
 ブローカー(保険仲立人)とエージェント(保険代理店)の違いは果たして何か。文字通り保険会社の代理人である保険代理店に対して、ブローカーは特定の保険会社と一線を画す存在だ。企業が子会社としてつくる機関代理店は、やはり保険会社の代理人の位置付けにほかならない。
 ブローカーは、保険業法上で「保険仲立人」と規定される。要するに、ユーザーと保険会社の中間に位置付けられ、保険業法299条では、ベストアドバイスの誠実義務が課されている。端的に言えば、いつもお客サイドであること、即ちそれがブローカーにほかならない。
 八並堯夫共立インシュアランス・ブローカーズ社長に、 わが国におけるブローカー制度導入から今日までの推移と今後の活路について伺った。 (取材・構成=編集部・小柳)


  どこまでも「フェア」を貫く
 
――日本におけるブローカー元年は1996年ですが、 この辺りからお話しして下さい。
 八並社長: 損害保険料率は1998年に完全自由化されました。 それ以前の損害保険は、選択の余地がありません。どの保険会社もみな同じであり、また同じ保険料でした。お客さまは、株主や営業関係、あるいは個人的なつながりやしがらみ等で保険商品や保険会社を選んでいたと言っても過言ではありません。商品のよし悪しで選ぶ必要がないためです。
 しかし1998年を境に、 保険会社ごとに商品内容も保険料も変わりました。自動車保険にしろ、火災保険にしろ、さまざまな商品が出現しました。
 ところが、お客さまは、どれが自分に一番適しているのかよく分かりません。これをきちんと選ぶことは、実は大変なことです。一方、私たちブローカーのほとんどは企業先が相手です。企業の場合、大規模な保険物件ですから、いわゆる吊しというか、出来合いの保険を買ってくるのではなく、お客さまの身の丈に合った、いわばオーダーメードで保険をつくり込んでいきます。もちろん保険代理店でも、大規模な乗合代理店では主要社の保険販売に当たります。そうなると、ブローカーと同じような姿勢で仕事に取り組んでいることでしょう。しかしブローカーの場合は、お客さまのために働くという明確な法律上の義務があり、また供託金を積むなど賠償資力による裏付けを有しています。
 とくに公的セクターの場合、 例えば国立大学等では、私たちが考えていた以上に ブローカーのコンセプトが受け入れられました。 掻いつまんで申し上げると、損害保険を手配するときに保険会社に相談するのではなく、自分たちの側に立ち相談に乗ってくれるところが必要という考え方です。その際、ブローカーの中から選ぶというコンセプトがとても分かりやすかったようです。
 公的セクターでも、従来からある公社・公団等では、特定の保険会社に相談し保険を手配し、とくに何の疑問もないままに来ましたが、2001年の独立行政法人化以降、コンプライアンス意識の高まりから、例えば選考過程の公正性や透明性の確保、あるいは第三者に対する説明責任等が問われるようになりました。
 保険代理店が、たとえ「ブローカー的な機能を発揮しています」と言ったとしても、やはり保険会社の代理店ですから、特定の保険会社に偏ってしまうケースもあります。しかしブローカーは、どこまでもフェアでなければなりません。コンセプトが明快です。
 
  保険流通の在り方で欧米と「差」
 
――保険自由化を念頭に置き、わが国ではブローカー制度を導入しましたが、欧米のブローカーと日本のブローカーではその在り方が異なるようです。
 八並社長: 日本は欧米のブローカー制度を持ってきたわけですが、欧米とわが国では、第一マーケットのあり方が異なります。またブローカーの規模も異なります。 例えば欧米では、お客さまが、とくに企業が保険について検討したいときは、まずブローカーに相談に行きます。それはなぜかですが、保険会社に行っても相談に乗ってくれる相手がいないからです。
 要するに、保険会社は販売に携わるスタッフを省き、間接コストをできるだけ簡略化し価格競争力を高めるためです。アメリカでは、何千社と保険会社があります。より競争力のあるところに、あるいは特定分野に特化しています。そうすることにより、価格競争で生き残ることができます。
 日本の保険会社は、業務部に当たるセクションだけ持っており、 営業はブローカーに任せる分業体制が確立しています。日本では、代理店という流通の担い手がいるにもかかわらず、保険会社がさまざまに及び力を発揮します。たくさんの営業社員を抱え直接的にお客さまにコンタクトを取り、その多くの場合、そこで実質的に保険会社が条件を交渉し全てを決めます。
 どうしてこれほど、わが国と欧米では異なるのかと言えば、一つには保険会社が積極的に流通市場を育ててこなかった側面が否めません。保険会社の立場では、「せっかくお客を囲い込んだのだから、 余計な知恵を付けてほしくない」と言う気持ちかもしれません。 したがって、企業に機関代理店をつくらせるのは一種の囲い込み戦略です。ここが欧米と大きく違うところです。
 
  アフターケアがどこまでできるか
 
――わが国のブローカー制度はまだ10年にも満たない、とても若い販売網ですが、販売規制も多いのでしょうか。
 八並社長: わが国のブローカー制度は、代理店制度の後付けでつくられています。したがって、さまざまな手枷足枷があります。 例えば、代理店主体のマーケットに対し、ブローカーが一緒に保険販売を行うことは禁じられています。こうしたたくさんの制約があり、ブローカーにとってはとても高い障壁です。したがって苦戦を強いられています。
 欧米に比べると、日本ではむしろ代理店制度のほうに自由度があるようです。大きな保険代理店では、実質的にブローカーと同様の事業展開です。ブローカーは、法律上の義務や規制を課せられており、わざわざ保険代理業から転換する必要もありません。保険ブローカーは現在、全国に40社程度しかないのも、結局ニッチ分野を模索してきたからです。
 そして、ブローカーでなくてはできないこと、ブローカーらしい業務とは何かについて模索してきた歴史です。公的セクターは、そういった分野の一つです。
 
――わが国では機関代理店が一定のシェアを有しています。欧米では、ブローカーがこの役割を担っているのでしょうか。
 八並社長: 一概に、そうとも言えません。ドイツでは、かつて日本と同じように代理店販売が主流でした。もちろんドイツも、自由化により変わってきています。それでどうなったかと言えば、インハウスの保険代理店がインハウスのブローカーになっています。
 そして、インハウスのブローカーと外部のプロフェッショナル・ブローカーがタイアップする形が生まれました。
 日本では今後どうなっていくのか、皆目見当もつきませんが、 金融審議会でもそのうちに販売チャネル問題は俎上にのぼると考えます。このタイミングに合わせて、保険ブローカーの存在を少しでも世の中に知ってもらえるようになればと考えます。いずれにせよ、 今後数年が分かれ目になるはずです。
 ブローカーの推移をみると、1996年から延べ71社が登録しました。このうち統廃合により31社が登録抹消しています。直近では39社が登録し、日本保険仲立人協会にはこのうち35社が加盟しています。この4年間は、1年に5社の割合で登録抹消している計算です。
 
――ブローカー数は伸び悩み、頭打ちの状態です。この先についてはどう考えますか。
 八並社長: 独立行政法人など公的セクターが、引き続きブローカーのマーケットとして有望であればいいと思っています。しかし今後については、まだどうなるかは判然としません。というのも、 当初の保険手配はブローカーでも、あるパターンが出来上がると、 あとはとくにブローカーでなくてもよいとならないとは限りません。
 ですから、私たちブローカーはメンテナンスというか、アフターケアをどの程度きちんとでき、顧客満足が得られるかに掛かっているように思います。
 たまたまこの2、3年で、公的セクターが販売先として一気にクローズアップされていますが、このフォローしだいではまた様子は変わってくるかもしれません。
 
  アドバイザーの立場で見直し提案
 
――わが国では銀行系と商社系のブローカーが主流ですが、個人ブローカーが生き残る余地はありますか。
 八並社長: なかなか厳しい質問ですね。今生き残っているブローカーは結局、一定の勝ち組です。この勝ち組とは、ビジネスモデルをつくり出したところです。ブローカーに適した市場を見つけたところです。個人、法人の別なく、お客さまにブローカー制度を理解して頂いて初めて、ブローカーの存在意義が発揮できます。よき理解者をどれだけ増やせるかに掛かっています。
 
――共立グループ内での、保険代理店とブローカーとの競争もありそうですが。
 八並社長: 確かにありますね。共立は大きな保険代理店です。 実質的なブローカーですから、特定の保険会社の販売店というような意識はありません。長年にわたりお客さまのために、ブローカー制度ができる以前から、ある意味ではブローカーとして働いてきました。にもかかわらず、どうして共立がブローカーを立ち上げたかと言えば、一種のアンテナショップのような役割があったと思われます。ブローカー制度が本当に日本に根付くか否か、あるいはブローカーらしい業務ができるかについて実践しているとも言えます。
 保険自由化以前、うまく機能していなかったこと、例えば①全社的なリスクマネジメント体制はどうか、②補償内容の充実度はどうか、③保険会社の言いなりに保険手配していないか、④保険会社に法外な保険料を払っていないかなどについて「見直ししませんか」 と言うのがわれわれの問題提起です。
 もちろん、共立(保険代理店)でもやってきたことですが、機関代理店がありますから、共立が一緒にやって来た会社の場合、そういう問題提起はしづらいわけです。そう指摘すると、今まで何をやってきたのかということになりかねません。さらに見直しの結果、 保険料がガクンと下がると非常に具合の悪いことになります。
 したがって、ブローカーがコンサルティングやアドバイザーの立場で「見直ししてみませんか」と提案するほうがやりやすいわけです。「機関代理店に取って代わるという趣旨ではありませんよ。仕事が完了すれば、私たちはそれで引き下がります」と言えます。
 確かに、子会社である保険代理店の収入は減るかもしれません。しかし、会社全体で保険料が大幅にカットできるとしたら、こちらのほうがメリットとしては大きいはずです。
 そういう形で提案したのが、保険自由化初期の頃です。ただし、今ではグループ会社の共立も同じことをやり始めており結局、守っていただけではどんどん自分たちのマーケットは細くなっていくばかりです。やはり攻めなければダメだということに気付き、攻めへと転じました。そうなると結局、バッティングしてしまうこともありますね。(笑)
 では、私たちは何をやるかですが、例えば関係会社を含めた企業グループ全体、あるいは海外のグループ会社まで含めたトータルなリスクマネジメントの手伝いを行うという考え方があります。また日本では、まだ比較的手薄な事業中断リスクや賠償責任リスクについて展開する考え方もあります。賠償責任リスクの場合、何が起こるか分からないという恐れがあります。つまり、リスクが読みづらいことから日本の保険会社は従来、積極的に手を付けて来ませんでした。ところが、さまざまな事件や事故が起き、お客さまニーズは多様化しています。お客さまの視点に立ち、海外マーケットから再保険の形で、お客さまに新しい商品を提供することが有効かもしれません。
 また、日本の会社が海外へ進出するとき、大抵の場合、海外現法の保険の手配は現地に任せっ放しのケースが多く、仮に製造拠点が大きな事故に巻き込まれると本社の業績にも大きく響き、その影響は深刻です。日本企業の内外を含めたトータルなリスクマネジメントの提案がブローカーらしいと考えます。
 まず、保険ありきではなく、企業が必要なリスクについてのヘッジができているかについて問い掛け、その中で例えば火災に対するリスクヘッジが不十分だったり、地震に対するキャパシティーが確保出来ていなかったり、あるいはコストが高かったりといったことがあれば、それを少しでも改善できる策を探すことになります。
 金融商品との絡み、保険との融合なども有望な分野です。プロジェクト絡みの分野も、時代的な背景として要請があります。というのも、企業が従来のように親会社の信用でプロジェクトを組む時代はすでに終焉しています。このプロジェクトファイナンスでSPC(特定目的会社)をつくり事業展開すると、アクシデントが発生したときその事業しか担保しません。これでは資金を貸す側もリスクを負います。したがって、どの程度のリスクがあり、どのくらいの保険手配が必要で、その採算性はどうか。そういったさまざまな分析のアドバイスがブローカー業務です。
 
――現状のブローカー制度の問題点についても少し触れて下さい。
 八並社長: 欧米では、ブローカーに保険料が支払われると、ブローカーはそこから自らの手数料を差し引きネットの保険料を保険会社に払い込みます。ところが、日本では、保険料を受け取ったあとブローカーが潰れたらどうするか、あるいはブローカーが手数料を勝手に決めたりすると保険マーケットに混乱を来すと案じ、保険代理店と同じ方式を取っているようです。
 お客さまからすると、「お客のために働くと言っておきながら、 手数料を保険会社からもらうのはなぜだ」という疑問があるようです。また保険料の中に、私どもの手数料が含まれるとお話しすると、 お客さまは保険料が高くなるのではないかと思うようです。
 ブローカーがきちんと仕様書を整え入札すると、むしろ保険料は安くなることが多いと思います。またブローカーが入ると価格競争に陥るとも言われますが、決してそういうことはありません。ただ、私たちが一所懸命にやればやるほど保険料が下がると同時に、実は私たちの手数料も減ってしまいます。しかしお客さまに喜んでもらえることは満足です。私たちの信用力にもつながります、仕方がないことです。