『小金井通信』 2024年6月 ◆「月刊ライト」2009年12月号

 五十嵐正明SBI損保社長は、6月10日の『2024年3月期近況報告会』の席上、退任を表明。「元受正味保険料は2019年12月の社長就任以降、4年半で135億円増収した」と振り返った。
 同氏の経歴を見ると、1984年4月アメリカン・ライフ・インシュアランス・カンパニー(アリコジャパン)日本支店(現・メットライフ生命)入社を足掛かりとして、1990年11月ナショナーレ・ネーデルランデン生命(ING生命)N.V.日本支店(現・ エヌエヌ生命)/1995年4月住友海上(現・三井住友海上)/2000年4月千代田火災(現・ あいおいニッセイ同和損保)/2005年4月ブロードマインド 取締役/2007年3月ブロードマインド少額短期保険(現・スマイル少額短期保険)代表取締役/2011年7月一般社団法人日本少額短期保険協会専務理事/2015年1月日本少額短期保険(現・SBI日本少額短期保険)取締役/2016年6月日本少額短期保険(現・SBI日本少額短期保険)代表取締役/2017年6月SBIリスタ少額短期保険取締役/2017年6月SBI少短保険ホールディングス 取締役/2019年6月SBI少短保険ホールディングス 代表取締役/2019年12月SBI損保代表取締役社長と活躍の場を目まぐるしく転じ異彩を放ち続け、通販型損保社長として今回、40年に及ぶ保険人生に終止符を打った。同氏の原点ともいえる、ブロードマインド少額短期保険時代を回顧する。(取材・小柳博之)
 


【アーカイブ】「月刊ライト」2009年12月号

 「あしたの保険販売」
   五十嵐正明ブロードマインド少額短期保険社長に聞く

 保険業における価格破壊と流通革命を標榜し、保険の新たな可能性を模索する。
 とはいえ、一朝一夕にそうした保険事業が実現できるわけではない。2002年1月保険代理店『ブロードマインド』を設立。翌年1月には共済事業のコンサルティグ業務に着手、さらに2004年4月に独自共済『日本スポーツリスク協会』を立ち上げた。
 五十嵐正明さん(昭和36年11月東京都生まれ、47歳。立教大学法学部卒業)は、外資系生保2社を経て、損保系生保立ち上げに参画、その後損保会社に転職し、通販プロジェクトに携わる。
 同氏は、ブロードマインドの創業メンバーとして、保険販売の傍ら医療・死亡保障共済やペット共済など最盛期には両手ほどの種目別共済会を運営。そして、保険業法改正の中で少額短期保険業への参入を決断し、受け皿会社『ブロードマインド少額短期インシュアランス』を設立。ここに日本スポーツリスク協会とティグレ会の共済契約を包括移転し、2008年4月『ブロードマインド少額短期保険』がスタート。現在、経常収益4億円。
 少額短期保険業のあるべき姿は「どれだけ事業費を絞り込みミニマムな事業を展開するか」。ひと口に言うと、ローコスト・オペレーションが全て。(取材/構成=編集部・小柳)


 
 ローコスト・オペレーションを実現するため、ブロードマインド少額短期保険では、①シンプル、②イージー、③リーズナブル、④カジュアル、⑤プログレッシブと、5つのマニフェストを掲げる。
 「私たちの保険は、分厚く難解な保険約款や覚え切れないほどの特約条項はありません。また面倒な医師の審査や長時間の面談もありません。とにかく低廉な価格を実現することが使命です」
 要するに、普段着で固定観念にとらわれない保険を標榜する。
 「どれだけ付加保険料を落とした保険商品が作れるかに全力を傾けています」
 目指すは、保険業界における『ユニクロ』である。
 「たとえば、従来1万円でなければ買えないと思っていた保険が、その半値で市場に流通することです」
 お客が飛びつくのは自明のこと。
「それが保険の流通革命であり、価格破壊です」
 少額短期保険業とは何かを、とことん追求する。
「少額短期保険業の特性を100%生かすことが大切です」
 翻って言えば、少額短期保険業には大きなハンディキャップも存在する。
 
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 「収受保険料規模や取り扱い種目などいくつかの制限があります」
 しかし、生・損保兼営という超目玉もある。
 「この権利を行使しないのであれば、少額短期保険業である必要はありません」
 さらに、包括移転を行ったことによる経過措置も生かせる。
 「当面、新規登録の少額短期保険会社よりも手厚い保障をお客さまに提供することができます」
 今秋、安心ドライブの『フロントガラス破損補償保険』を発売した。
 「日本自動車ガラス販売施工事業協同組合という団体があります。こことタイアップして共同開発しました」
 飛び石等によるフロントガラスの破損事故に着目した。
 「車両保険に加入している自動車保険契約が意外に少ないことが、今回の開発の発端です」
 車両保険に加入していないクルマの、フロントガラスの破損事故の修理費用は要するに自腹。
 「高級車にもかかわらず、安い輸入ガラスを装着することも、ままあるようです」
 このニッチ分野は、〝少額短期保険向け!〟と閃いた。
 「保険価格やマーケティングについて随分研究しました」
 自動車メーカーやディーラー、自動車整備工場を含めて概ね好感触を得た。
 「ディーラー等でクルマを購入しても、車両保険まで手が回らない人たちを救済することができます」
 『フロントガラス破損補償保険』の価格は、年払い保険料で3000円台から7000円台。
 「車両保険は、トヨタのカローラクラスで10万円ほどですから、これに比べるとリーズナブルです」
 いくら節約志向でも、フロントガラスなしでは第一、車検は通らない。
 「バンパーやドアが、少々へこんだ程度であれば運転に支障は来たしません。しかしフロントガラスなしでは、さすがにクルマの運転はできません」
 免責があり、しかも等級が下がる車両保険の場合、全損事故はともかく、5万円超の支払いは自腹か否か大いに悩むところ。
 「ガラス代金と工賃を含めて10万5000円から14万5000円(車種別)が保険金の上限です。スポーツ仕様の特殊なクルマを除き、この保険金額内でカバーできるよう考慮しました」
 99%の加入者に純正ガラスを提供できる。
 
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 「今秋9月から取り扱いを始めました。日本自動車ガラス販売施工事業協同組合加盟店は全国に350か所ほどありますから、ここを中心に販売していきます」
 もちろん、自動車ディーラーや自動車整備工場にも働きかける。
 「生保型商品の委託代理店は700名強ですが、この中には保険代理店として生・損保併売の方たちもいらっしゃいます」
保険代理店の品揃えとして、打ってつけの『フロントガラス破損補償保険』。
「親会社ブロードマインドには、東京以外にも大阪、名古屋に拠点があります。また旧共済時代に培ったネットワークを生かし、現在保険代理店開拓を行っています」
 広島、九州等でも着々と足場を固める。
 「私たちが想定している少額短期保険業は、将来生・損保会社を目指すための1ステップあるいは途中経過ではありません。法令上の問題はクリアしなければなりませんから、場合によってはライセンスの切り替えは必要かもしれませんが……」
 とはいえ、少額短期保険業の領域は自ずと定まってくると考える。
 「少額短期保険業は、こじんまりやる必要はありません。『業』としての枠組みの中で、お客さま目線で最大限の事業効果を挙げることこそ肝心です」
 今後も新たな商品開発に取り組む。
 「次から次に、いろいろな商品を投入してくる会社だな! というイメージを持っていただけるよう努力していきます」
 生・損保会社があり、制度共済があり、また任意共済があり、それぞれが補完し合うことで国民生活や暮らしを支えてきた。
 「私たちは法令に則り、粛々と事業を営むことになりました。今後何年間かの事業を通じてきっと棲み分けが確立すると思います」
 たとえば医療保険を購入する顧客の立場で考えると、少額短期保険会社と生・損保会社がどうして同じような商品を販売するのかと疑問を感じる面もあるはずだ。
既存の保険会社にない特長をいかに発揮するかが、今後、少額短期保険業の分岐点となるかもしれない。
 「手前味噌ですが、フロントガラスの保険の場合、従来の自動車保険のカテゴリーではカバーできませんから、その必要性は十分認識していただけると思います。当社の商品は、ワンコインから数千円程度の保険料ですから、多くのお客さまに支持いただけるものと確信しています」