『小金井通信』 2024年3月1日
●東京海上日動、損保ジャパン、三井住友海上、あいおいニッセイ同和損保など大手損保4社、昨年12月のカルテル容疑に関する金融庁の『業務改善命令』に関して2月29日、業務改善計画書を提出。また経営責任を明確化するため、各社は役員に対し解雇や減給など処分を下した。
(取材・小柳博之)
これまでの経緯を辿ると、
公正取引委員会は昨夏8月、損保各社が企業向け火災保険の保険料を事前に取り決める『保険料の調整行為』を結んだ疑い(カルテル)があると事情聴取に乗り出した。
金融庁は、保険料を同程度の水準で調整した疑いで保険業法に基づき報告徴求命令を発出していたが、これを受け追加の報告徴求命令を発出した。
公正取引委員会は昨年12月19日、『不当な取引容疑』(カルテル)で大手損保4社に立ち入り検査に入った。
金融庁は昨年12月26日、損保大手4社に『業務改善命令』を発出した。
東京海上日動は2月29日、昨年12月26日に受領した保険料調整行為(カルテル)に関する業務改善命令に基づき金融庁に業務改善計画書を提出した。
それによると、同社は、「業務改善命令を厳粛に受け止め、このような事態を二度と起こすことがないよう各種調査結果に基づく真因を踏まえ、仕組み・体制面(契約プロセス、機構・制度・ガバナンス)、意識面、知識面などあらゆる観点から再発防止策を検討し、経営責任の明確化を含む業務改善計画を策定した」とコメント。
今後、独占禁止法の原則(公正かつ自由な競争の維持・促進)に基づき、保険本来の価値を提供し利用者に選ばれる顧客基点の会社実現に向け次の取り組みを進める。
(1)当社に根付いた業界慣行の抜本的な見直し:当社が顧客企業に提供したいと考えている「保険本来の価値」よりも、単なる保険料の多寡、政策株式の保有状況、本業協力度合い等による幹事保険会社や取引シェアが決定するケースも存在し、当社も「保険本来の価値」だけではなく、そのような領域でも競争を行ってきたことは事実である。今回の事案を転機と捉え、お客さまに何を提供することが当社の責務であるか、お客さまのために何をすべきかを今一度見つめ直し、たとえば政策保有株式をなくすことや過度な本業協力の解消、顧客企業ではなく保険代理店に向けた過度な競争からの脱却など、当社に根付いてきた様々な業界慣行を抜本的に見直す。
(2)社内制度や仕組みの見直し:経営管理態勢の抜本的な強化や適切な法令遵守態勢の確立等はもとより、適正な営業推進を実践するため、社内の制度や仕組みも見直す。当社では過去から、トップライン(保険料収入)による営業目標の管理が行われ、社内表彰制度では組織の営業目標の達成が大きなウエイトを占めてきた。また、社員個々人の業績評価制度では、組織目標をベースに個人のトップライン目標が設定され、その達成に評価の重きが置かれる実態だった。今後は、顧客企業に対し「保険本来の価値」を提案・提供し評価する仕組みへと見直す。
(3)人材育成の強化:激甚化する自然災害や複雑化する多様なリスクへの対応に加え、顧客企業が事業を継続するための事故の未然防止や被害を最小限に抑える取り組みを含めた最適な保険プログラムを、適正な保険料で長期安定的に提供し、顧客企業のリスクマネジメントや企業価値の向上に貢献することは当社の責務である一方、当社は、時として目先の競争やマーケットシェアに目を奪われ、結果として顧客企業の保険に対する理解を高める取り組みが十分に行えておらず、今後社員がリスクマネジメントのプロフェッショナルとして、より高い価値提供を行うことができるよう従来以上に人材育成に注力していきたい。そして顧客企業、当社の双方にとって納得感のある最適な結論を見出し、顧客企業との永続的な信頼関係を構築することができる『しなやかで逞しい社員』を育成していきたい。
また、一連の問題を教訓として、保険会社だけでなく保険代理店等も含めた保険市場本来のあり方を今一度検討していきたい。損害保険業界の一員として適正な競争環境の構築に取り組むとともに、社会から真に必要とされ、社会課題解決や経済成長に貢献し続ける会社及び業界を創っていくためにも、決意をもって取り組みたい。
損保ジャパンは2月29日、昨年12月26日付のカルテルに係る業務改善命令に基づき金融庁に業務改善計画を提出した。
それによると、同社は、今回の行政処分を厳粛に受け止め、「すべてをお客さまの立場で考える保険会社」へと変革するべく、全社を挙げて業務改善計画の着実な実行に取り組み、ステークホルダー等からの信頼回復に努めることを明らかにした。また、業務改善計画の策定を機に、その実効性の向上を目的として、現在の「監査役会設置会社」から「監査等委員会設置会社」へ移行する。「監査等委員会設置会社」へ移行することにより、取締役会で議決権を有する社外取締役の増員や監査等委員会が取締役の指名・報酬で意見陳述権を有することを通じて、経営の透明性・公正性の向上及び監督機能を強化することや、企業文化の変革/ブランド回復/コンプライアンス推進/品質管理など強化すべき重要領域に対し新たにチーフオフィサー(CxO)を配置するとともに、意思決定プロセスの透明性向上の観点で重要かつ専門性の高いテーマについて経営会議の諮問機関として品質管理委員会等の諮問委員会を新設し、「法令等遵守」、「お客さま本位の業務運営」及び「社会からの視点」に立脚し業務運営の透明性/公正性/適切性を確保することを提示した。
また、今回のカルテル行為等に係る行政処分及びビッグモーター、ビーエムホールディングス、ビーエムハナテンにおける不正行為に基づく不適切な保険金請求に係る行政処分(3月15日までに業務改善計画を金融庁に提出予定)に関して、SOMPOホールディングス及び損保ジャパンでは次の処分を行う。
▽白川儀一損保ジャパン社長社長執行役員(2024年1月31日付退任)
▽飯豊 聡損保ジャパン副社長執行役員(2024年2月29日付退任)
▽櫻田謙悟SOMPOホールディングス取締役グループCEO代表執行役会長:月例報酬50%×6か月分減額
▽奥村幹夫SOMPOホールディングス取締役グループCOO代表執行役社長:月例報酬30%×6か月分減額
▽濵田昌宏SOMPOホールディングスグループCFO・CSO執行役専務:月例報酬20%×3か月分減額
▽原 伸一SOMPOホールディングスグループCHRO執行役専務:月例報酬20% ×3か月分減額
▽魚谷宜弘SOMPOホールディングスグループCRO執行役常務:月例報酬20%×3か月分減額
▽西澤敬二損害保険ジャパン取締役会長:月例報酬50%×6か月分減額
▽齋藤 滋夫損害保険ジャパン副社長執行役員:月例報酬20% ×3か月分減額
▽山本謙介損害保険ジャパン取締役常務執行役員CSO・CFO・CHRO:月例報酬20%×3か月分減額
上記以外のSOMPOホールディングス、損害保険ジャパンの執行役、執行役員は、原則全ての執行役、執行役員を対象として、「月例報酬50%×6か月の減額~月例報酬10%×1か月の減額」を実施する。
なお、奥村SOMPOホールディングスグループCOO代表執行役社長は上記の報酬の減額に加え、月例報酬の70%×4か月分を、石川SOMPOホールディングス執行役、損保ジャパン社長社長執行役員は月例報酬の30%×3か月分を、中村損保ジャパン常勤監査役は月例報酬の30%×6か月分を自主返上。併せて、SOMPOホールディングスの社外取締役等及び損保ジャパンの社外監査役等は月例報酬の20%×3か月分を自主返上する。