『小金井通信』 2024年2月22日 ◆「月刊ライト」2007年2月号

【アーカイブ】  「月刊ライト」2007年2月号   (取材・小柳博之)


「新春インタビュー」 

 保井俊之 金融庁監督局保険課長に聞く 

《プロフィール》 やすい・としゆき:昭和60年4月大蔵省入省。平成4年5月外務省在インド日本大使館二等、一等書記官(平成7年6月まで)、平成13年1月国際協力銀行開発金融研究所主任研究員(ワシントン)、平成17年8月金融庁総務企画局企画課信用機構企画室長、平成18年7月監督局保険課長。東京大学教養学部卒業。昭和37年12月生まれ。東京都出身。


 いわゆる、保険金の不適切な不払い・未払い問題で一年が明け暮れた生・損保の2006年だった。2007年のスタートにあたり、保険金等の不適切な不払い或いは支払い漏れ問題を中心に、少額短期保険業者や郵政保険会社など新規参入組の動向を含めて、昨年7月に着任した保井俊之金融庁監督局保険課長に、着任から半年間を振り返っていただいた。     (取材=編集部・小柳)

 
――昨年7月に保険課長に着任しちょうど半年が過ぎました。この半年間を振り返ってください。
  保井保険課長: 保険業界にとっても、私ども監督当局にとっても、大きな節目になる半年間でした。昨年から、保険会社の基本的な機能である保険金の支払いと募集について、不払いや支払い漏れ問題等への真摯な反省を受け、各社に前向きな取り組みが本格的に見られ始めました。
 実は、この取り組みには二つの要因があります。一つは、保険会社への行政処分が相次ぎ、保険金等の不適切な不払い或いは支払い漏れについて契約者はもちろんのこと、世論の目が向いたことです。その結果、一連の行政対応の中で保険会社自らが襟を正し、かなり改善が図られました。
 もう一つは、販売の入り口について、金融庁では一昨年「保険商品の販売勧誘のあり方に関する検討チーム」を立ち上げ検討を行いました。これは、金融改革プログラムに位置付けられたプロジェクトです。その成果として、今まで分かりにくいと言われていた保険商品の募集時の説明について、昨年10月から重要事項の説明の徹底として、契約概要や注意喚起情報等の導入が図られました。また、意向確認書面の導入についても監督指針改正案を公表し、パブリックコメントを求めました。これらは、同プロジェクトチームでの議論における重要な成果と考えます。
 募集と支払いという保険会社の基本的な機能を、もう一度見直すという意味では、まさに節目になる半年間でした。これら動きに対して、われわれ監督当局としても、何がしかの貢献が出来たのではないかと感じています。
 
――保井保険課長は、これまで保険行政にはほとんど携わっていません。前任が初めてだったのでしょうか。
  保井保険課長: 平成13年7月から4年間、国際協力銀行開発金融研究所主任研究員としてワシントンにいました。このときは、米国の経済・金融の実態をレポートにまとめ東京に送っていました。米国における保険業界の動きは、レポートのテーマの一つでした。そして帰国後、金融庁総務企画局に配属され、企画課内の3室の室長を兼務しました。このとき兼務した3室の一つに保険企画室があり、ここで保険の法令・制度の立案に携わりました。具体的には、保険セーフティーネットの見直しと少額短期保険制度の導入に関する政省令立案を担当しました。
 
――いわば、前任時に企画立案したことを実施に移す立場になったわけですが、企画立案セクションに比べてハードな半年だったのではないでしょうか。
  保井保険課長: 与えられた課題は、前任者の小野保険課長と同じです。とりわけハードになったとは感じていません。他方、保険業法が対象とする業種業態が一気に広がったことが前の体制との大きな違いになりました。昨年4月に改正保険業法が施行され、今までのような伝統的な生・損保会社の監督に加え、これまで無認可共済と言われていた事業者が保険業法上に位置付けられ、特定保険業者として新たに389団体が参入し、監督対象になりました。
 特定保険業者の方々は、平成20年3月末までに少額短期保険業者(いわゆるミニ保険会社)或いは保険会社入りするかを選択することになります。
 特定保険業者が新たに保険業法の適用対象に加わるとともに、もう一つの新たな動きは郵政民営化関連で今年から郵便保険会社が保険業法上の保険会社に参入することです。
 郵政民営化委員会のヒアリングに昨秋呼んでいただき、監督当局として民間保険会社に対する、われわれの目線等を説明しました。郵政民営化を円滑に進めるとの見地から、日本郵政公社の監督官庁である総務省とも、日本郵政公社や日本郵政(株)とも、必要に応じて忌憚なく意見交換しています。民間保険会社として、きちんとやるべきことをやっていただくという点では、今年10月以降の郵便保険会社も他の民間保険会社と同じだと思います。
 総括すると、生・損保会社から少額短期保険業者、さらに郵政保険会社という巨大事業者が参入することで、民間保険会社の業態やビジネスモデルが多様になりつつあることが、これまでと大きく異なる点でしょうか。
 
――従来の数十の保険会社の監督行政でも大変だと思いますが、400近い少額短期保険業者が加わり、さらに巨大な郵便保険会社が加わると、膨大な業務量になります。監督のあり方自体にも、何らかの変更が求められるでしょうか。
  保井保険課長: 保険業界の方々も従来の業界の常識や物の考え方を変えつつあるかもしれません。改正保険業法の施行と郵政民営化は、この意味で新しいビジネスモデルの導入という流れでもあり、よい刺激になると思っています。
 監督態勢面でも、この新しい流れに対応していくことにしています。一つは、少額短期保険業者については財務局が監督することになっています。財務局の監督という点では、おそらく平成8年に旧募取法が廃止されて以来の画期的な出来事ですが、少額短期保険業者は各地方に所在する財務局が監督する体制になっています。
 もう一つは、来年度の予算・定員案に郵便貯金、郵便保険を監督する参事官が設置される案が盛り込まれていることです。郵政保険会社に係る監督は、この参事官が対応する見込みです。
 少額保険業者の財務局による監督については、旧募取法に基づく監督を行っていた時代から10年が経ちます。当初は、率直に言って戸惑いもあったかもしれません。われわれの持っている経験や監督の手法を財務局と共有していきたいと思っています。また、それぞれの財務局による監督の目線にバラツキがないよう留意していきたいと思っています。
 四国財務局は、昨秋10月23日に特定保険業者であるベルル生命医療保障共済会(本部・徳島市)に対して業務停止命令等の行政処分を課しました。この事案などを踏まえ、各財務局に金融庁から①特定保険業者の実態をよく把握すること、②無届け業者に対応すること、③移行期間であることを踏まえ、届け出を行っている特定保険業者の円滑な移行のため親切、丁寧な対応を行うことの3つの監督上の対応を要請しました。金融庁としても、財務局と同じ目線で対応していきたいと思っています。
 
――オレンジ共済に代表されるように、共済とは名ばかりで、はなから詐欺を行うことを目的として共済の名を冠している団体等に対して行政の網をかけようとしても、また一定のスキームを当て嵌めようとしても、一筋縄では行かないように思いますが。
  保井保険課長: われわれは、保険業法に基づき適切かつ慎重に対応していきます。無届け業者に対しては、警告を発するなどのことを行うことにしています。悪質なケースがあれば、警察等と連携し情報提供等も行っていきたいと思っています。これは、詐欺的なスキームを使い金銭を集めるために共済の名を借りる業者等に対して、法令整備の面で適切に対応する保険業法改正の立法趣旨の一つに沿ったものです。オレンジ共済事件等が発生した反省が、一昨年の保険業法改正の契機になったと聞いています。
 
――2006年1年間を通じての生・損保業界を振り返っていただくと。
  保井保険課長: さきほど保険会社の基本的な機能として入り口と出口について、つまり募集と保険金支払いの話をしました。保険会社は、入り口と出口ともに姿勢のあり方が厳しく問われた1年でした。
 もう少しマクロ的な観点で考えると、保険会社のビジネスモデルという点でも、画期的な節目に立った1年と言えるかもしれません。ちょうど今年辺りから、いわゆる団塊世代の大量退職時代を迎えると言われています。団塊世代の中には、個人金融資産を持ち、健康を維持しつつ、その金融資産を運用したいと思っている方もいらっしゃるでしょう。保険業界としても、それぞれの保険商品でこのニーズに応える絶好の機会と捉えている会社も多いと思います。消費者の方々がどういう保険商品に入りたいかというニーズも多様化しています。金融庁では昨年4月、預金取扱い金融機関、保険会社、証券会社、貸金業者等を対象として「利用者満足度アンケート」を取りまとめました。このアンケートでは、保険会社に対して比較的満足度が高かったのは、《提供される商品・サービスの種類が多くなった》、《インターネットや携帯電話などのサービス提供チャネルが多様化した》などでした。
 このアンケート結果の背景を考えると、かつてのビジネスモデルのように営業職員を大量に投入し少ない種類の保険商品を、いわばパワーセールスする時代ではなくなったことを消費者が好感しているとも解釈できます。《私は自らのニーズに沿って他の人と異なる商品を選びたい》とか、《私は週末に店舗に足を運び、自分で保険商品を選びたい》とか、消費者ニーズは商品から買い方まで多様化しているというのが実態でしょう。
 無認可共済と言われていた事業者の方々が少額短期保険業者として参入する、また銀行窓販の全面解禁に関する議論もあります。これらの動きも、今後保険の販売チャネルに関する消費者ニーズが変化する兆しです。したがって、これまでのようなビジネスモデルや販売手法は、変化を余儀なくされていくように思います。これらの兆しが顕在化したのも2006年でした。
 
――効率化と言うと、すぐに人件費の削減や支払いを絞ることが思い浮びます。またわが国の損保会社は、代理店販売であるにもかかわらず、多くの営業社員を有しています。これは、しばしば販売の二重構造と指摘されますが、どのように考えますか。
 保井保険課長: 経営の効率化と申し上げるのは、経費の節減や保険代理店・営業職員の構造のことだけではありません。
 経営の効率化には、二つの側面があるでしょう。一つは、各種リスクの適切な管理と資産運用の高度化に引き続き取り組んでいただくことです。
 もう一つは、商品開発面或いは支払い管理態勢を適切に組み、ガバナンスについてもよくこれを効かせ、経営を実効性あるものにするという点です。これまでの保険会社のビジネスモデルは、規模の大小はあってもフルラインの販売モデルであったでしょう。たとえ小規模な保険会社であっても、各社類似の商品を全て、フルラインで販売していたのです。各社とも商品開発から支払い管理態勢、事務まで全て「相似形」のものを維持する体制でした。ところが、これは率直に言って、必ずしも効率的とは言えない側面もあったのではないかと思います。それぞれの会社ごとに自社が得意とする、言い換えると、もっとも効率的に販売できる商品に特化し、それに合わせて適切な支払い態勢を組み、事業態勢を組むと、効率化も自ずと追求できるのではないでしょうか。
 先ほどの質問にお答えすると、効率化とは単なる事務経費の節減ではありません。選択と集中を行うことでしょう。効率化という名の下に無理に「死差益いくら、損害率いくら」といった目標を掲げると、保険会社の基本的な機能の一つである保険金支払いの適正性に齟齬を来たし、ひいては行政上の対応の発動にも繋がりかねません。その場合、契約者の信頼を失ってしまうという重大な結果を招くでしょう。
 経営の効率化は、どの商品・販売チャネルに自分たちの会社は集中するかという選択を意味しているのではないでしょうか。
 もう一つの保険代理店や営業職員の問題については、どういう商品をどのビジネスモデルで、そしてどのツールで売りたいかを経営陣が高い見識で判断すると、自ずと答えが出るのではないかと思います。
 規模の大小を問わず、各保険会社とも販売のメインフレームは営業職員の方々の対面販売であり、保険代理店でしょう。しかし今後、《わが社ではこういう商品を売っていきたい。この商品にはこういう販売ツールが一番適している》と経営陣が判断すると、販売フレームに集中・特化する動きが出てくるでしょう。こうした動きが昨年いくつかありました。
 例えば、生保会社の中には、銀行窓販にかなり特化した子会社を設立する動きがあります。また、インターネットツールに特化して保険商品を販売したいという会社設立の動きもあります。或いはファイナンシャルプランナーを多数配置し、お客さまとファイナンシャルプランニングを相談しながら保険商品を推奨する中で、お客さまニーズに応えるビジネスモデルの会社もあります。
 おそらく、このどれもが経営の効率化に資すると思います。私が経営の効率化として申し上げたかったことは、それぞれがそれぞれ独自時のビジネスモデルを追求すると効率化の追求にも資するということです。
 
――自動車保険販売に特化するとか、アサインド・リスクの自動車保険を取り扱うとか、さまざまな考え方があると思いますが、従来型の保険会社ではやはりフルライン販売へのこだわりがあるようです。となると、時代に取り残されてしまいますが。
  保井保険課長: 少額短期保険業者の参入も一つの刺激となり得るでしょう。こうした方たちは多様なビジネスモデルを持っています。保険会社も、このような事業者の方たちから直接間接に刺激を受ける可能性があります。
 また、アサインド・リスク中心に引き受ける自動車保険会社は、米国では好調に業績を伸ばしているようです。日本でも十分にポテンシャルのある分野だと思います。保険の市場環境の活性化を受け、いろいろな方たちが新しいビジネスプランを検討されることはよいことだと思います。
 
――生保会社から損保会社に飛び火、業務停止命令に至った保険会社も出るなど、この1年以上にわたり生・損保業界を揺るがし続けている、いわゆる「保険金の不適切な不払い・未払い問題」についてもお話ししていただきたいと思います。
  保井保険課長: 適時適切な保険金支払いは、保険会社として基本的な役割を果たす上で極めて重要です。保険事業を健全に運営していくためには、必要不可欠な機能です。適時適切な保険金支払いを行うよう、各保険会社におかれては責任を持って取り組んでもらいたいと思います。
 そういった意味で一昨年来、損害保険会社26社の自動車保険を中心とする付随的な保険金等の支払い漏れがあったことは遺憾です。この事案については現在検証を進めています。当局としては、一昨年11月25日に業務改善命令を発出し、そのフォローアップの一環として、昨年8月11日に再調査を指示し、9月末までに再調査の報告を受けました。しかし、さらに金融庁が保険会社に対してヒアリングを行ったところ、支払い漏れの検証は完了していないとの事実が昨年末に判明しました。とくに保険種目の組み合わせでは、ほとんどの保険会社が検証を完了していなかったことが分かったわけです。したがって金融庁としては、その旨を公表した上で、各社が最終的に調査を終了する時期について報告を求めました。昨年12月8日のことです。
 各社では、今年2月半ばから6月までの間に調査を完了する見込みと聞いています。しかしこの目標よりも、一刻も早く前倒しが出来るように支払い漏れの調査に全力を上げ、経営資源を十分に投じて、支払い漏れの解消に努めてもらいたいと思います。
 第三分野についても、全ての損害保険会社に不払い事案の検証をお願いしています。この件では、昨年10月末に報告を全社から出してもらいました。現在精査中です。
 こういった付随的な保険金の支払い漏れ、或いは第三分野での不適切な不払いという事案が出てきたことについては、金融庁としては大変遺憾に思っています。繰り返しますが、保険金支払いは保険会社の基本的な機能の一つですから、こういったことがきちんと行われるような態勢作りを各社に引き続き強く求めていきたいと思っています。
 
――今回の不払い・未払い問題は、ほとんど全ての保険会社が何らかの違法行為を行っていますから、弁解の余地はないと思います。しかし、1年以上にわたり膨大なロードと費用をかけて一連の確認・検証作業を続けることは、ユーザーの視点で考えるとマイナス面も多いと思ったりもしますが。
  保井保険課長: 保険会社の過去の業務運営なり、保険金の支払い或いは募集のあり方等をきちんと検証することなく、きちんとした保険商品の販売或いは支払い態勢を築くことはできないと思っています。各会社が過去を十分に検証することなく、未来に向かってきちんとした支払い態勢を構築できるかと言えば、それは大いに疑問です。
 まず過去を検証して不払いを解消し、業務運営態勢を立て直し、支払管理態勢を確立することが大事です。これは、保険契約者の方々の信認確保に不可欠です。
 過去の検証はともかく、とにかく保険に入りたいという人はいないのではないでしょうか。その方々が加入される保険商品が過去と同じく不払いや支払い漏れにならないという保証がないからです。過去の検証が済み、支払い管理態勢がきちんと構築されている保険会社の商品であれば、万が一の事故の場合にも、きちんと保険金が受け取れる安心な商品だということになります。
 契約者の方々の信頼回復が極めて重要です。過去をうやむやにして今後の業務運営を再確立できるということはないと思っています。まず過去を検証することから始めなければなりません。
 
――この不払い・未払い問題は、明治安田生命型と、自動車保険を主と中心とする損保の不払い型の二通りに分かれますが、自動車保険等の不払いはいわばおまけ的な要素の強い、定額の不払いです。同じ不払いと言っても、少し性格が異なるようにも思いますが。
  保井保険課長: 契約者の方々の目線に立つと、そのような分類は無意味です。例えば、こういう「思考実験」をしてみてください。もし仮に、私が付随的な支払い漏れの被害を被った一契約者だとしたら、一体どう考えるだろうか。約款に基づいてきちんと保険金を支払ってもらいたいと思うでしょう。
 契約者としては、まさかの事故のときには約款に基づく適切な保険金支払いを期待し、保険を契約しているのです。それが適切に支払われないとすれば、たとえ支払い漏れであれ、不払いであれ、同じことです。契約者の立場に立ち考えると、意図的な不払いであれ支払い漏れであれ、分類する意味はありません。約定した約款に基づき適切に保険金を支払ってもらいたい、それだけです。
 保険会社を監督する目線では、不適切な不払い、支払い漏れを問わず、例えば意図性があったかどうか、隠蔽の有無や不作為があったかどうか、組織的にやっていたのかどうか、さらに再発性が認められないか等を勘案し、行政上の対応を考えていくことになります。それぞれの事案に応じて、まず事実関係を検証し、法令等に基づき監督上の対応が必要な場合には適切に対応することにしています。原点は、一契約者の目線に立ち考えたとき、その不適切な不払いや支払い漏れはどういった意味を持つのかを吟味してみることです。
 
――昨春、損保ジャパンと三井住友海上の2社は、それぞれ2週間の業務停止命令を受けました。その後の一連の不払件数を見ると、他社についても業務停止命令が出てもおかしくありません。また、出なければ平等感が損なわれるように思います。しかし、損保26社に順送りで検査に入り、実態に基づき判断していては完了するまでに数年を要すとも考えられます。率直な考えを伺いたいと思います。
  保井保険課長: 監督上の目線は、透明、公正、公平の3原則に基づいています。つまりルールに基づいた公正な金融行政の徹底が、この基本的な考え方です。個別事案の詳細に立ち入ることは控えますが、一般論で申しますと先ほど申し上げた通り、その非違が組織的だったか、大量だったか、繰り返し行われていたか、意図性があったかどうか、契約者の保護に重大に影響を及ぼすものであったかどうか等を勘案し行政処分を発出してきています。損保会社の付随的な保険金の支払い漏れ、第三分野の不適切な不払いについても、われわれは同じ目線で事実関係に基づき慎重かつ公正に対応していきたいと思っています。
 
――新年早々に検査に入った保険会社あるようですが、同様の事例が見つかれば、行政処分もあるということですね。
  保井保険課長: あくまでも一般論で申しますと、これまでの事案と同じく、事実関係に立脚し、その事案の重大性等を勘案し対応していきます。こうしたこれまでの当局のスタンスは変わりません。
 
――例えば、こうした問題が表面化して以降きちんとした対応を取っているが、それ以前は行政処分を受けた会社と同様の事例が散見されることになると、どういった処分になるのでしょうか。
  保井保険課長: 個別事例についてはコメントを控えますが、先ほど申し上げたようにさまざまな要素を勘案し対応することになります。改善策を自ら講じることは、各社ひいては業界の信頼回復のために重要です。
 金融庁には3つの局があります。監督局を「一般医の仕事」に譬える人もいます。譬えて言えば、制度の企画立案や法令の改正案の準備など大手術に匹敵する「専門病院」の仕事とされる総務企画局とはアプローチが違うからでしょう。また、検査局をレントゲンで健康状態をチェックする仕事と譬える人がいますが、その「検査医」アプローチとも違うでしょう。一般医の方々は患者さんの日常の体温や脈を見ながら、熱があるのか風邪を引いているのか、ファミリードクターとして家族全体の健康相談にも乗っているという仕事だと聞いています。比喩の当否はさておき、あえてその比喩に乗れば、一般医としての目線で大事なことは、患者さんそのものに備わっている自然治癒力を大切にすることだと聞いていますし、われわれの目線もまた同じでしょう。
 投薬することが目的なのではありません。われわれが関与するのは、患者さんの治癒力が自ずと高められるようにすることです。
 保険会社は、不適切な事例或いは不祥事があったときには自らそれを正し、治していく態勢作りが何よりも求められています。経営陣の関与が欠かせませんし、コンプライアンス態勢の確立はその重要な要素です。各社ともこうした面での向上に、まず努めていただきたいと思います。当局が行政処分という形で関与するのは、各社の取り組みを当局の関与で促進する効果を期待するからです。
 
――過去に問題があっても、今が前向きであれば一定の評価に値するわけですね。
  保井保険課長: 過去の検証は、もちろん必要です。過去の検証で不適切な事例が見つかれば、厳正に対応します。他方、適切な業務運営態勢を確立していこうとする各社の前向きな取り組みが見られることには勇気付けられる思いです。