『小金井通信』 2024年12月 金融審議会総会「損害保険業等に関する制度等ワーキング・グループ」(第5回)
●金融庁、12月5日開催の金融審議会「損害保険業等に関する制度等WG(第5回会合)」で、①損害保険市場・損害保険業界の現状及び②保険市場に対する信頼の回復と健全な発展に向けた課題等について論議し、同WG報告書案を固めた
(取材・小柳博之)
金融庁は、12月5日15時から17時半まで中央合同庁舎第7号館9階905B共用会議室及びオンラインで金融審議会「損害保険業等に関する制度等WG」(座長・洲崎博史同志社大学大学院司法研究科教授)第5回会合を開催。赤井保険企画室長が「第4回ワーキング・グループでの議論を踏まえた考え方の再整理」及び『「損害保険業等に関する制度等ワーキング・グループ」報告書(案)』について説明するとともに、下井保険課長が「情報漏洩等事案の概要」について説明したのち討議に入った。次回、12月13日開催の第6回会合で『「損害保険業等に関する制度等ワーキング・グループ」報告書』を取りまとめる。
事務局の論点整理では、①企業内代理店の立場は不明確、②実務能力が乏しくても一定の手数料が得られ保険代理店として存続できる、③企業内代理店に支払われる手数料は保険料の実質的な割引と指摘した上で、具体的な対応の方向性として、「特定契約比率の適用の見直し」、「特定契約比率の適用外の枠組み」、「保険仲立人への特定契約比率の適用」を提示するとともに、特定契約比率規制の適用除外の具体的な要件として、「一定の体制整備」及び「手数料の適正化」の道筋を提示しその考え方を示唆した。
また、企業内仲立人の手数料の受領方法等に関する考え方として、①一般的な保険代理店の場合、②企業内代理店の場合、③企業内仲立人の場合をそれぞれ例示し、特定契約比率規制の算定対象から除外する対象として、企業内仲立人が手数料を顧客から受領する場合を挙げた。
一方、下井保険課長は、損害保険会社を巡る一連の不祥事の中から派生し現在精査中の「情報漏洩等事案」(同一のフォーマットにABCD社の全情報を記載するため他保険会社の契約者情報が閲覧可能になる〈ディーラー等乗合代理店における代理店事案〉及び他保険会社の契約者情報を送付する〈A保険会社出向者事案〉)の概略について触れた。
同報告書(案)は、Ⅰ.はじめに Ⅱ.顧客本位の業務運営の徹底(1.大規模乗合代理店に対する体制整備義務の強化等 2.乗合代理店における適切な比較推奨販売の確保 3.保険代理店に対する保険会社による適切な管理・指導等の実効性の確保等 4.損害保険分野における自主規制のあり方の整理) Ⅲ.健全な環境の実現(1.保険仲立人の活用促進 2.保険会社による保険契約者等への過度な便宜供与の禁止 3.企業内代理店のあり方の見直し 4.火災保険の赤字構造の改善等) Ⅳ.おわりに、の4章立て。
Ⅱ.顧客本位の業務運営の徹底の、1.大規模乗合代理店に対する体制整備義務の強化等の、(2)保険金関連事業を兼業する「特定大規模乗合保険募集人」等への対応では、「特定大規模乗合保険募集人のうち、保険金関連事業を兼業する者に対しては、(ⅰ)不当なインセンティブにより顧客の利益又は信頼を害するおそれのある取引を特定した上で、(ⅱ)不当なインセンティブを適切に管理する方針の策定・公表、(ⅲ)不当なインセンティブにより顧客の利益又は信頼を害することを防止するためその他の体制整備(修理費等の請求に係る適切な管理体制の整備等)を求めることが必要」と規定した。
併せて、「特定大規模乗合保険募集人でなくとも、保険金関連事業を兼業していれば、不当なインセンティブが生じる余地は否定できないことに鑑み、同事業を兼業する全ての保険代理店に対して、『顧客本位の業務運営に関する原則』(特に原則3「利益相反の適切な管理」)の周知を改めて図り、同原則の理念を踏まえ、その規模・特性に応じた自主的な取り組みを促すことにより、顧客本位の業務運営を求めていくべき」と明記し、モーターチャネル等における一連の不祥事に対して毅然と対処する方向性を提示した。
また、特定大規模乗合保険募集人に求める体制整備のあり方として、一定の資格要件を有する責任者を設置する旨や、営業所及び事務所ごとに法令等を遵守し適切な業務を行う指導者(『法令等遵守責任者』)を配置するとともに、本店及び主たる事務所に法令等遵守責任者を指揮し法令等を遵守適切な業務を確保するために指導等に当たる者(『統括責任者』)を設置すること及び新たな試験制度を創設する旨を提示した。
Ⅱ.顧客本位の業務運営の徹底の、2.乗合代理店における適切な比較推奨販売の確保では、「乗合代理店における保険募集の実務や募集形態を踏まえつつ、顧客の意向に沿って保険商品を絞り込む。絞り込みに当たっては、顧客が重視する項目を丁寧かつ明確に把握した上で、意向に沿って保険商品を選別し推奨する」旨を盛り込んだ。
これに対し、一部委員から「顧客は必ずしも意向があるわけではない。そうした余地を踏まえた対応も求められる」といった意見具申があった。
Ⅲ.健全な環境の実現の、1.保険仲立人の活用促進の、1.保険仲立人の活用促進の、(1)保険仲立人の活用促進に向けた対応では、「手数料の受領先及び金額については、保険仲立人、保険会社、顧客の三者間で調整した上で決定する」。「顧客から手数料を受領できるように見直す際には、企業向け保険のみに限定する。中長期的には、個人顧客も対象から排除しない方向で検討する」など折衷案を提示した。
これに対し、委員は「概ね賛成。三者間調整の主体は誰か。保険仲立人に対し規制を設けるべきはない」と賛否は分かれた。
保証金の最低金額については、現行の2000万円から1000万円に引き下げる妥当性を認める一方、過去の3年間の手数料の合計金額の見直しについては、「今般の一連の措置を受けた保険仲立人の活動状況の変化を見極めた上で改めて検討する」旨を記し、現状の制度枠組みを維持した。
ただ、保険仲立人の国内外の豊富なネットワークや専門的知見に鑑み、顧客企業に対して、より適切な保険プログラムの提供が可能と判断し「保険仲立人と保険代理店等の協業を認めるべき」と規定した。
Ⅲ.健全な環境の実現の、2.保険会社による保険契約者等への過度な便宜供与の禁止では、取引の公平性やサービスの競争確保の観点から「特別の利益の提供として禁止する行為の対象に、サービス(ホテル等宿泊施設など)の利用や、物品(車販及び被服、食品等)の購入、役務の提供等の便宜供与」を新たに含め、特別利益の受け手の対象として保険契約者又は被保険者のグループ企業を追加する旨を記す一方、「どのような便宜供与が禁止対象に該当するのかについて、今後、監督指針等で可能な限り明確化が図られる」ようその必要性に言及した。
Ⅲ.健全な環境の実現の、4.火災保険の赤字構造の改善等では、カルテル事案を招来した大手損保の寡占化に鑑み、「商品認可制度をはじめ既存の監督の枠組みのあり方についても検討していくことが重要である」ことや、火災保険参考純率の算出方法の見直しを行うこと、及び米国ニューヨーク州やドイツを例示し、賠責・サイバー・運送保険等へと参考純率算出・標準約款作成の対象種目を拡大しコスト低減を図る必要性を示唆した。
オブザーバーの平賀暁保険仲立人協会理事長は事務局に対し、「健全な競争環境の実現の中で、今後各損害保険会社、損害保険代理店、保険契約者から委託を受ける保険仲立人等の業界関係者においては、当局や保険契約者とともに、独占禁止法違反の未然防止に向けた方策を引き続き検討すべきと記されていますが、私たちの認識では、保険仲立人が独占禁止法に違反した事例はなく、この書きぶりを見直して頂きたい。
また、保険仲立人の活用促進に向けた対応の中で、手数料の受領先及び金額については、保険仲立人、保険会社、顧客の三者で調整した上で決定することが考えられる。
具体的には、保険仲立人は顧客に対して、手数料を、保険会社から全額受領するか、顧客から全額受領するか、顧客と保険会社双方から受領するかをあらかじめ説明することが適切である。また、保険会社から手数料を受領する場合、保険仲立人は、顧客に対して、保険会社から受領する手数料の額は保険料に占める割合等をあらかじめ開示することが適切であると記されていますが、これは全てを総称し言っているのか、或いは双方取りを踏まえ、三者で調整した上で決定する旨を記載しているのか、いずれでしょうか。手数料の受領先及び金額についてであれば、双方取りを前提として書かれているようにも思えますが、この書きぶりについてもご検討を頂きたい。
おわりに、の中に、保険仲立人の活用についても触れて頂きたい。ご検討をお願いします」と要請した。
ワーキング・グループのメンバーは13名。上杉東京経済大学現代法学部教授/大村三浦法律事務所弁護士/沖野東京大学大学院法学政治学研究科教授/小畑一般社団法人日本経済団体連合会経済基盤本部長/片山日本労働組合総連合会総合政策推進局経済・社会政策局長/神作学習院大学法学部教授/小林ANAホールディングス社外取締役/嶋寺 基大江橋法律事務所弁護士/滝沢デロイト・トーマツ・コンサルティング執行役員/中出早稲田大学商学学術院教授/松井東京大学大学院法学政治学研究科教授/柳瀬慶應義塾大学商学部教授/山下京都大学大学院法学研究科教授。