『小金井通信』 2024年11月 金融審議会総会「損害保険業等に関する制度等ワーキング・グループ」(第4回)

●金融庁、11月15日開催の金融審議会「損害保険業等に関する制度等WG」第4回会合で保険仲立人の媒介手数料の受領方法等について論議
(取材・小柳博之)

 金融庁は11月15日15時から180分、中央合同庁舎第7号館9階905B共用会議室及びオンラインで金融審議会「損害保険業等に関する制度等WG」(座長・洲崎博史同志社大学大学院司法研究科教授)第4回会合を開催。事務局説明ののち①企業内代理店のあり方、②乗合代理店における比較推奨販売の適正化、③損害保険分野における自主規制のあり方、④火災保険の赤字構造、⑤第3回ワーキング・グループでの議論を踏まえた考え方の再整理(保険仲立人の媒介手数料の受領方法)等について討議した。
 事務局は今回、企業内代理店を巡る課題として「損保会社の代理店の一方、顧客企業と人的・資本的に密接な関係を有し、その立場は不明確」、「顧客グループの一員の企業内代理店を損保会社が適切に指導することは困難である」、「実務能力に乏しい企業内代理店だったしても、グループ企業等に保険募集を行えば、一定の手数料が得られる」、「企業内代理店に支払われる手数料は、保険料の実質的な割引に該当する。その結果として、企業向け保険市場への保険仲立人や他の保険代理店の参入障壁を招来し、企業向け保険市場の競争環境に歪が生じている」といった論点を提示した。
 また、大手損保4社の委託先で、同4社が企業内代理店として認識している先は9530社。各社の収入保険料上位300社に対する調査では、それらの重複を排除した代理店数は736社で、そのうち企業内代理店は256社。特定者の範囲を連結決算の対象に拡大すると173社だったと明かした。
 さらに、保険契約の取り扱い規模に照らし合わせると、「企業内代理店の保険募集人は僅かしか在籍しておらず、従業員の多くは親会社との兼務である(社員代行)」と指摘。併せて、企業内代理店では、「保険募集人が専門的な保険知識を有していないにもかかわらず、他の選択肢を活用することなく、グループ会社の保険手配を委ねている」といった事例に言及した。
 事務局は今後の対応として、特定契約比率規制における経過措置を撤廃してはどうか。3年程度の準備期間を設けてはどうかと具体案を提示した。これに対し委員からは「3年程度の根拠はいったい何か」といった意見が出た。また、事務局は手数料の適正化策として、保険会社に対して企業内代理店の提供する役務に応じた手数料の支払いを求めてはどうかと提示した。これに対し委員からは「企業との力関係からみて、保険会社が企業内代理店の適正な役務を評価することは難しい」と手厳しい指摘もあった。
 さらに、事務局は、特定契約比率を撤廃すると、企業内代理店の特定契約比率規制の潜脱(法令に違反しない他の方法)として保険仲立人を利用する可能性がある。「保険仲立人も特定契約比率規制の対象にするべき。保険仲立人が顧客から手数料を受領するときには、特定契約比率の算定から除外するべき」との考え方が提示された。これに対する委員の賛否は相半ばした。
 乗合代理店における比較推奨販売の適正化について事務局は、対応の方向性として「顧客に対して商品を提案・推奨する基準や理由を社内規則等に定めることや、比較推奨販売の実施状況の適正性を確認・検証し、その必要性に応じて改善に取り組むなど、乗合代理店の規模や業務特性に応じた体制整備を求めてはどうか」と提示した。これに対し委員からは「実効性確保が難しい」といった見解等が提示された。
 損害保険分野における自主規制のあり方について事務局は、「損保代理店は約15万1000店。このうち兼業代理店が約83%(12万5000店)を占め、日本損害保険代理業協会会員数は約1万社(専業代理店は約8割)であり、損害保険代理店全体の約7%に過ぎない」と指摘。これらを考慮すると、「損害保険の募集分野全体を対象に自主規制の実効性を確保することは困難」と示唆する一方、自主規制機関を設置しなければ問題があると言える状態にはないとの見解の下、「日本損害保険協会の第三者評価等の取り組み効果等を見極め、効果を検証した上で、改めて自主規制機関の賛否を検討してはどうか」と後退案を提示した。
 火災保険の赤字構造について事務局は、自然災害の頻発化・激甚化等による支払い保険金の増加等を受け、火災保険参考準率は引き上げられているが、「既存の長期保険契約の影響や再保険コストの増加等により損保各社の火災保険は赤字状態である」と指摘。先に発覚した保険料調整行為(カルテル)事案に言及し、「損保会社における営業上のプレッシャーが高まる中で、リスクに応じた適切な保険料率が設定されていない」と指摘、主要企業向け保険商品の保険収支を適時に把握し料率設定に反映する態勢等の整備状況や運営実態に対するモニタリングを強化する案を提示した。
 併せて、火災保険参考純率の算出方法の見直しを提示した。これに対し委員からは「安易な算出方法の見直しは行うべきではない」と事務局案を牽制する意見も出た。
 保険仲立人の媒介手数料の受領方法(第3回ワーキング・グループでの議論を踏まえた考え方の再整理)については、顧客・保険会社双方手数料を受領できるようにする事務局案に対して、「保険会社から得ている現状に照らし合わせると、顧客から得られる方向に改めることが先決ではないか。双方から得られる案は飛躍し過ぎであり、規制緩和し過ぎではないか」といった意見も出た。
 オブザーバーの平賀暁保険仲立人協会理事長は、「前々回会合で要望事項として、特定契約比率規制について申し上げた。洲崎座長からは次回第5回会合で議論を深めると伺っている。特定契約比率規制は、保険代理店の自立と専門性の向上、さらに保険の実質的な割引の防止を則すことが趣旨であり、そもそも自立し専門性を有し登録している保険仲立人が保険代理店と同じ規制を受ける理由は見当たらない。保険仲立人は顧客の委託を受けており、顧客の評価や満足度を満たしていることを反映した取引比率の高について規制を受けるのは、顧客本位の趣旨から外れると考える。委員方たちが懸念される特定契約比率規制の潜脱については、保険仲立人は当局へ届け出を行い、その承認のハードルはかなり高く、仮に登録を行った場合でも、毎年事業報告として、当局に細かな説明・照会等々を行わなければならず、このハードルの高さに照らし合わせると、果して潜脱として利用されるおそれがあるか否か。もちろんゼロは想定できないとしても、企業内代理店の保険仲立人化への雪崩現象は考え難い。保険仲立人は、特定契約比率規制の適用対象外であり、その立場を尊重して頂きたい」と意見具申した。
 併せて、事務局が提示した、3年程度の準備期間について「措置の猶予期間3年程度は次回以降の論点であろうが、3年に置いた背景等について開示して頂きたい」と当局に要請した。
 ワーキング・グループのメンバーは13名。上杉東京経済大学現代法学部教授/大村三浦法律事務所弁護士/沖野東京大学大学院法学政治学研究科教授/小畑一般社団法人日本経済団体連合会経済基盤本部長/片山日本労働組合総連合会総合政策推進局経済・社会政策局長/神作学習院大学法学部教授/小林ANAホールディングス社外取締役/嶋寺 基大江橋法律事務所弁護士/滝沢デロイト・トーマツ・コンサルティング執行役員/中出早稲田大学商学学術院教授/松井東京大学大学院法学政治学研究科教授/柳瀬慶應義塾大学商学部教授/山下京都大学大学院法学研究科教授。