『小金井通信』 2024年10月◆「週刊インシュアランス」2019年2月号

【アーカイブ】「週刊インシュアランス」2019年2月号    (取材・小柳博之)


『ロング&ワイド・インタビュー』❹
 日本保険仲立人協会
 平賀 暁理事長/副島 昭弘副理事長に聞く


〈プロフィール〉ひらが・さとる:1981年第一勧業銀行入行。1990年ジョンソン・アンド・ヒギンズ(現マーシュジャパン)入社。2002年マーシュブローカージャパン社長。2013年マーシュブローカージャパン会長/日本保険仲立人協会理事長。1990年「アメリカン・グラデュエート・スクール・オブ・インターナショナル・マネジメント」MBA取得。慶応義塾大学経済学部卒業。1958年7月生まれ。神奈川県横浜市出身。
 
〈プロフィール〉そえじま・あきひろ:1978年大正海上入社。損害保険代理店及び生命保険代理店開業。㈱副島保険企画代表取締役。1996年アームコンサルティング㈱代表取締役。2013年日本保険仲立人協会副理事長。1975年10月行政書士資格取得。1996年8月生命保険仲立人資格取得。1997年8月損害保険仲立人資格取得。八幡大学法律学部(現九州国際大学)卒業。1955年10月生まれ。佐賀県武雄市出身。


 1999年に誕生した来店型保険ショップなど乗合保険代理店(エージェント)の隆盛に比べると、ほぼ同時期に発足したにも関わらず、普及・拡大しない保険仲立人(ブローカー)制度の現状について、日本保険仲立人協会の平賀理事長と副島副理事長に忌憚なく伺った。両氏の話を要約すると、①ブローカーが普及・拡大しない最大の参入障壁は保証金の高さにある、②ブローカーの手数料は欧米並みに自由裁量にしたほうが顧客の納得感が得られやすいものの、過当競争を招きプレーヤーが育たなくなる恐れもある、③損保系生保などブローカーに好意的な生保が存在する一方、直販部門を抱える旧来的な生保ではブローカーに門戸を開放しないため乗合保険代理店に優位性がある。生保の特約は自由化されておらず、商品設計に自由度がなく、生保ブローカーには旨みが少ない、④『誠実義務』が規定されているブローカーには、エージェントに与えられている『契約締結の代理店』や『告知受領権』、『保険料の領主権』は付与されておらず、乗合保険代理店がブローカーに転換する利点は少ない、⑤再保険取引を行うと保険の根幹が露になるため、日本市場ではキャプティブは敬遠されがち、⑥企業物件は損保会社の直扱いが多く、ブローカーが活躍する場が少ないなど、幾つかの疑問点や問題点が浮かび上がった。
 
● ブローカーの現状及び欧米との相違点
 わが国における保険ブローカー(保険仲立人)の参入障壁の一つとして、保証金の存在があります。保証金の最低額は2000万円ですが、その後過去3年間ブローカーが保険契約の締結の媒介に関して受領した手数料合計金額に相当する最大8億円まで積み増す必要があります。この金額は、尋常ではありません。この考え方は、〈ブローカーは保険会社から独立した存在として保険募集を行い、保険契約者に損害を与えた場合に、保険会社は責任を負わず、ブローカー自らが責任を負う〉と云うものです。契約者保護の観点から、ブローカーの賠償責任に対する財産的裏付けとして、保証金の供託が義務付けられています。2016年5月に施行した改正保険業法では、当初の4000万円から2000万円に引き下げられました。さらに、1000万円まで引き下げられると期待しています。
 ブローカー保証金の積み方には、いくつかの方法があります。保険会社や銀行発行のボンドに依るものもあります。ただし、保険会社や銀行によっては、ボンドの発行を引き受けないことも考えられ、新規参入者にはそれほど甘くないと思われます。
 手数料面について申し上げますと、お客さまと保障(補償)内容等についてお話しする中で〈手数料は保険料の中に組み込まれています〉と説明します。お客さまによっては、その構造を疑問に思われるようです。〈お客のために仕事をすると言いながら、手数料は保険会社から受け取るわけ?〉といった反応が返ってくることがあります。手数料の受け取り方については、議論の余地があると考えます。私たちは、〈お客さまから同意が得られる手数料額であれば何ら問題はない〉と云う考え方です。保険業法では、『誠実義務』を全うする前提で手数料の大小や多少で保険商品を取り扱うべきではないと規定しており、考える余地はあると思います。
 
● 制度設計としてのブローカー導入の弊害
 1997年の保険業法改正では、欧米並みにブローカーを機能させたいと云う考え方があったと思われます。ただし、右も左も分からない中でブローカーを欧米並みに規定し、手数料を自由裁量にすることは現実的ではないと云う見方もありました。いきなり競争原理が働くと、ブローカーを育成することが難しくなるためです。行政、保険業界とも先の見通せない状況を勘案しブローカーの手数料は、〈保険代理店と同様に保険料に手数料を組み込む方式を採用したほうがベター〉と判断したことは想像に難くありません。
 米国におけるブローカーの現状は、収入の半分程度はフィーです。お客さまは、正味保険料を保険会社に支払います。一方、フィーについては、ブローカーの等価労働部分についてお客さまと交渉し、実際に掛かった工数をフィーとして請求します。とはいえ、こうした方式を日本に導入すると、市場に混乱を来す恐れがあります。ひと口に言えば、当初は手数料を低く抑え契約を取りに行く可能性があります。これでは、過当競争に陥りかねません。
 
● 個人・家計分野の窮屈さ
 企業分野に比べると、個人・家計分野は自由度がほとんどないのが現状です。お客さまから〈ブローカーと乗合保険代理店はどこが違うの?〉と問われても、〈ほとんど遜色ありません〉と答えるしか術はありません。生命保険分野も同様のことが言えます。1980年から保険代理店として、生保の取り扱いを開始しました。このとき、保険料は保険会社により異なりました。当社はA社を取り扱い、D社が一番低廉でした。当社では、D社より2割低廉な提案を行いました。現状の定期保険も、保険料が安い会社と高い会社では2.5倍ほど開きがあります。生保会社は、一社専属制を崩したくなかったと思われます。これにより、来店型保険ショップが誕生し、この違いが詳らかにされ消費者が殺到しました。保険業法では、保険代理店に対して『誠実義務』を規定していません。ところが、かつては中立公正を謳い集客していました。私たちは当協会を窓口として行政に対し、〈ブローカーこそが中立公正の立場である〉と働き掛けました。私たちは、〈全てのプレーヤーは同じ土俵で勝負するべきである。それが顧客保護の源泉〉と云う主張です。保険代理店には、契約締結の代理権や告知受領権、保険料の領収権が与えられています。しかし、ブローカーにはそれらが付与されていません。つまり、来店型保険ショップは、ブローカーに転換する旨みが存在しません。比較推奨販売など煩雑な規制はあるものの、得られるメリットは多くありません。規制を見直す際の論点としては、乗り合い規制の問題もあります。来店型保険ショップでは、数十の生保に乗り合い〈貴方にベストプラクティスを提供します〉と云う看板を掲げていたため、2016年5月に施行した改正保険業法では規制が設けられました。保険仲立人制度及び保険代理業制度が併存し、顧客利便を高めるには、来店型保険ショップ及び乗合保険代理店とブローカーの相違点を明確に打ち出す必要があると考えます。〈自由に保険商品を選択したい〉と云うニーズのお客さまは、ブローカーに相談する流れを作るべきです。
 
● 保険会社におけるブローカーの位置付け
 ライフプランナーなど直販部門を有する生保では、ブローカーが介在しないケースがあります。保険会社は、契約者の情報開示請求には応じますが、保険代理店が保険会社に情報開示請求することはできません。ブローカーは要求できますが、そのような機会は頻繁にはありません。
 来店型保険ショップや乗合保険代理店は、ブローカーになるより、保険代理店として国内生保やカタカナ生保を取り扱うほうが賢明だと思います。たとえばブローカーを介在しないA生命の商品に優位性があるとき、乗合保険代理店はブローカーと競っても負ける心配はありません。保険業法では、4社以上の見積もりを取れば『誠実義務』を履行できます。ブローカーは、真の意味でベストな商品設計を行う必要があります。
 当社では、仮にA生命の商品がベストと判断したときは、お客さまから情報提供等に関する同意を得た上でグループ内の保険代理店部門につなぎます。契約手続きは、もちろん代理店が行います。
 ブローカーは、複数社の商品内容や価格を比較することがビジネスの真骨頂です。私たちは、ブローカーが介在することによりお客さまにベストアドバイスを差し上げる、或いは差し上げなければならないという責任と自覚を持っています。
 企業は、自社のリスクマネジメントを強化する目的からキャプティブ会社を設立することがあります。事業会社の場合は、再保険キャプティブになることが多く、その設立・運営に保険市場を隈なく見ることが可能になります。要するに、保険の仕組みが明らかになります。その設立や企業のリスクマネジメントの支援を行うこともブローカーの本業の一つです。
 日本の多くの企業は、従来は保険会社主導で保険プログラムの構築を行ってきました。リスクマネジメントが徐々に日本でも浸透しており、リスクマネージャーの存在も個社で置かれるようになりました。自社主導でリスクや保険管理をすることが大事であり、そのことから有効に保険会社、そしてブローカーを利用することが望まれます。
 
● マーケットに風穴が開く日
 この数年来で企業物件にブローカーが立ち入る隙間ができ始めました。私たちの弛まざる努力の成果と企業側の研鑽がマッチングしつつあります。M&Aで海外企業を買収すると、保険取引にはブローカーが介在しています。この取引を紐解くと、優れた提案プログラムです。リスク処理の手段の一つであるリスクを有効かつ有益に保険に転嫁するプログラムの提案をブローカーは、積極的にユーザーにしています。〈海外ではブローカーの利用は当たり前だが、日本ではなぜ導入できないのか〉と、ブローカーに声が掛かる機会が増えてきました。ブローカーはリスクに主眼を置き、最善の処理策として保険プログラムの提案を行います。まさにベストアドバイスの義務を遵守・励行しています。
 2011年3月の『東日本大震災』では、企業が直接損害をカバーする地震保険に入っているケースはあったものの、事業中断中の利益保険の加入が多くないことが明らかになりました。一方、タイの洪水被害(2011年及び2013年)では、利益保険に加入しているケースが多くありました。
 海外では一般的な利益保険が、日本ではさほど普及していない実態が明らかになりました。企業がリスクマネジメントを強化する手段の一つとして、保険プログラムの精度を高めることが必要になっています。ブローカーを有効に利用することは、その選択肢として考えて頂きたいと思います。また、ブローカー自身も企業に対して積極的に提案する必要があると考えます。
 
● AI時代の保険販売の行方
 最近の動きとして、金融商品全般に関するポータルサイトを立ち上げる動きが見られます。保険募集について研究した結果、利用者にとってはエージェントよりブローカーのほうが好ましいと考える人たちが現れました。こうした人たちのビジネスモデルが成功すると、保険募集の流れが変わる可能性があります。学生向けに保険仲立人の存在を普及・敷衍する活動が肝心だと考えています。また、エージェントの中にもブローカーに転換したい人たちもいるはずです。エージェントがブローカーやブローカー会社を設立する手助けを行っていきたいと思います。