『小金井通信』 2024年9月

●金融庁、金融審議会に「損害保険業等に関する制度等ワーキング・グループ」を新設、9月27日に初会合開催
(取材・小柳博之)

 金融庁は9月27日10時から正午まで、中央合同庁舎第7号館9階905B共用会議室及びオンラインで金融審議会に新設した「損害保険業等に関する制度等ワーキング・グループ」(座長・洲崎博史同志社大学大学院司法研究科教授)の第1回会合を開催した。座長は洲崎「損害保険業の構造的課題と競争のあり方に関する有識者会議」座長が横滑り。
 同ワーキング・グループは、今夏8月26日に鈴木俊一金融担当大臣から諮問された『保険市場の信頼の確保と健全な発展に向けた方策に関する検討』(昨今の損害保険業界における保険金不正請求事案や保険料調整行為事案などを踏まえ、顧客本位の業務運営や健全な競争環境を実現することにより、保険市場に対する信頼の確保と健全な発展を図るために必要な方策について検討を行う)に基づき今回、新たに設置された。
 議事は、赤井金融庁企画市場局総務課保険企画室長が事務局説明を行い、今回の論点として「有識者会議の報告書を踏まえさらなる検討が必要と考えられる以下について顧客本位の業務運営や健全な競争環境を実現する観点から、どのような課題があり、どのような制度上の対応が必要と考えられるか」と提示した。
具体的には、①保険会社による適切な管理・指導が十分に機能しづらい大規模保険代理店において、募集品質の向上が図られるために、どのような対応が考えられるか。
 ②保険仲立人制度は1995年の保険業法改正時より導入されたが、いまだ十分に活用されていない。保険仲立人の活用を促進するためには、どのような対応が考えられるか。
 ③近年、損害保険会社において企業向け火災保険の赤字が継続している状況について、どのような課題があると考えられるか。
 ④損害保険市場における公正な競争環境を実現する観点から、損害保険会社による便宜供与や企業内代理店の目指すべき姿等について、どのように考えるか。
 赤井保険企画室長は、「上記の他、保険市場に対する信頼の回復と健全な発展を図る観点から、本WGで検討すべき論点はあるか。あるとすれば、どのような対応が考えられるか」と付け加えた。
 引き続き、笹山日本損害保険協会一般委員長が「信頼回復に向けた日本損害保険協会の取り組み」(健全な競争環境の実現や損害保険業の基盤を支える業務品質の向上等の取り組み)の概要説明を行ったのち、討議に入った。
 ワーキング・グループのメンバーは13名。上杉東京経済大学現代法学部教授/◎大村三浦法律事務所弁護士/沖野東京大学大学院法学政治学研究科教授/小畑一般社団法人日本経済団体連合会経済基盤本部長/片山日本労働組合総連合会総合政策推進局経済・社会政策局長/神作学習院大学法学部教授/◎小林ANAホールディングス社外取締役/◎嶋寺 基大江橋法律事務所弁護士/◎滝沢デロイト・トーマツ・コンサルティング執行役員/◎中出早稲田大学商学学術院教授/松井東京大学大学院法学政治学研究科教授/柳瀬慶應義塾大学商学部教授/◎山下京都大学大学院法学研究科教授。◎の6氏は、「損害保険業の構造的課題と競争のあり方に関する有識者会議」委員だった。
 中出委員は、「現在の保険代理店制度は小規模な保険代理店を前提としており、現状の大規模乗合保険代理店には対処できない。大規模乗合保険代理店、兼業保険代理店には上乗せ規制を課すべき。企業分野は保険仲立人を活用すべき」と意見具申。
 大村委員は、「比較推奨販売を行う保険代理店は手数料を開示するべき。兼業保険代理店は利益相反を生む温床である。損害保険業の構造的課題と競争のあり方に関する有識者会議では、企業内代理店の実情を分からずに議論していた節がある」と発言した。
 滝沢委員は、「リスクマネジメント能力を満たさない企業内代理店では用を成さない。キャプティブの活用など専門性発揮が望まれる」と企業内代理店のあり方に言及した。
 上杉委員は、「保険会社から独立した存在である保険ブローカーが保険会社から手数料を得る現状のあり方は矛盾している。保険ブローカーは顧客の委託を受けるのだから、手数料は顧客から得るべき」と質した。
 小林委員は、「大規模保険代理店の募集品質向上には、管理責任者の設置や収入における保険代理業収入の割合開示が肝心。乗合代理店における比較推奨販売の撤退及び1社推奨の際には明確な根拠説明が欠かせない。現状の保険販売を鑑みると、保険会社の代理店と顧客の代理である仲立人の役割に大きな差異はない。顧客が保険代理店と保険仲立人の両方を使い分ける業務上の差異を明確にするべき」と書面回答した。
 企業向け火災保険の赤字体質については、①リスクに見合った保険料を請求することが不可欠。②包括的にリスクカバーする火災保険商品も散見される。③火災保険はどんぶり勘定である。個人・家計向け火災保険と企業向け火災は切り分けるべき」といった意見が大勢を占めた。