『小金井通信』 2024年6月7日
●金融庁監督局保険課、6月7日開催の「第4回損害保険業の構造的課題と競争のあり方に関する有識者会議」で『損害保険業の構造的課題と競争のあり方に関する有識者会議報告書』(我が国保険市場の健全な発展に向けて)を取りまとめた。
(取材・小柳博之)
金融庁は6月7日16時から、中央合同庁舎第7号館13階共用第1特別会議室で「第4回損害保険業の構造的課題と競争のあり方に関する有識者会議」(座長・洲崎博史同志社大学大学院司法研究科教授)を開催、会議の模様をYouTube配信した。
第4回会合は、事務局(金融庁保険課)が過去3回の論議を取りまとめた『損害保険業の構造的課題と競争のあり方に関する有識者会議報告書(案)(Ⅰ.はじめに Ⅱ.顧客本位の業務運営の徹底 Ⅲ.健全な競争環境の実現 Ⅳ.その他の論点 Ⅴ.おわりに)を提示し、三浦知宏保険課長が概要を行ったのち質疑に入った。
今回の、「損害保険業の構造的課題と競争のあり方に関する有識者会議」は、中古車販売店/自動車修理工場/保険代理店を兼業していたビッグモーターが、自動車修理工場として不正行為を行い、保険金を過大に請求していた事実にとどまらない問題を提起した事案、及び共同保険の組成過程で複数の損保会社が入札時に保険料の事前調整(カルテル)を行っていた事案を踏まえ、金融庁保険課が2024年3月に設置し、短期間に活発かつ幅広な議論を展開し報告書(案)を取りまとめた。
それによると、大規模保険代理店に対する保険会社の管理態勢が行き届かない現状に照らし合わせ、より厳格な態勢整備等を法令上の措置として求める必要性や、法令上に根拠を持つ自主規制機関等(第三者機関)を設立する必要性に言及した。この点について大村委員は「強制権限のある組織体でなければ機能しない」と指摘。また、「罰則規定を設けなければ第三者機関は形骸化し機能不全に陥る」といった言及もあった。
一方、売上げ規模に偏重する現状の保険代理店手数料ポイント制度のあり方の見直しには有効な手立てはなく、「規模・増収型」から「業務品質型」への転換を促すにとどまった。他方、大規模保険代理店については「損保会社別に手数料総額等の開示の仕組みの構築が望ましい」といった具体案も出された。これは、顧客本位の観点で妥当性があるといった考え方に基づく。
兼業保険代理店のあり方については、ビッグモーター事件があったにもかかわらず、金融庁は今回、保険代理店の兼業禁止に踏み込むことを避けた。
昨秋9月1日、千葉県保険流通協同組合は『創立三十周年記念講演会』を開催。来賓の三浦保険課長は席上、「入庁初日、昼食時に生保の営業職員がデスク前に立ち、4000万円の定期付終身を提案され驚いた」、「自動車ディーラーを訪ねクルマを購入したとき、自動車保険を勧められ契約した。とくに違和感はなかった」と言及し、生活の一部に生・損保が組み込まれている現実を示唆した。こうした現状を追認した。
報告書は、共同保険や企業内保険代理店については、実務能力の乏しい保険代理店は本来、公正な競争環境の下で淘汰されるが「グループ企業への保険募集を行うだけで一定の手数料収入を安定的に得られる」ことに言及し、その結果として「企業向け保険市場における保険仲立人や他の保険代理店の参入を妨げ、企業向け保険市場の競争環境に歪が生じている」と指摘する一方、企業内保険代理店は「グループ企業への依存をやめ、自立した保険代理店として、保険仲立人や他の保険代理店と公正な競争を行っていけるようになることが重要」と盛り込み、その実現に向け環境整備するよう金融庁に要請した。
また、企業内保険代理店の自立を促す観点から、特定契約(保険代理店が、自らと人的又は資本的に密接な関係を有する者を保険契約者又は被保険者とする契約)比率規制を見直すよう促すとともに、早急に撤廃するよう求めた。
併せて、保険仲立人の活用を促進する施策を整備するよう要請した。現行の監督指針では、「保険仲立人は保険会社から保険契約の締結の媒介に関する手数料等の報酬を受け取る」ことになっており、保険代理店と同様の報酬体系。
欧米における保険仲立人は、顧客のリスクコンサルティングに当たり、それに基づき最適な保険手配を行い、保険会社から純保険料で受けた保険商品を顧客に提供し、リスクコンサルティング料を含めた対価(フィー)を顧客から得る仕組み。
報告書は今回、保険仲介者に支払われる手数料体系について、役務に応じたフィーベースの報酬体系を検討するよう求めた。
質疑では、8名の委員は短期間に取りまとめた同報告書の趣旨を概ね好感し、細部の微調整を行った。①保険代理店は業務知識を高め、(商品説明等)保険募集を行う前に、リスクマネジメントやリスクコンサルティング業務に当たるべき。②従来の消費者保護の観点から、今回は市場環境整備へと目線が広がった。③保険仲立人の活用における一物二価をどう考えるべきか。一般ユーザーの理解を得るにはハードルが高いかもしれないなど、様々な意見交換を行った。
洲崎座長は「かつて保険仲立人に関する研究に着手したものの、成案を得るには至らなかった」と陳述し、今後の議論の深まりに期待した。また各委員と再度、意見交換を行った上で最終報告書を作成する旨を提示し、一任を取り付けた。