『小金井通信』 2024年6月25日

●金融庁監督局保険課、6月25日に『損害保険業の構造的課題と競争のあり方に関する有識者会議報告書』(我が国保険市場の健全な発展に向けて)を公表、併せて13時から記者ブリーフィングを行った。
(取材・小柳博之)

 金融庁は6月25日、中央合同庁舎第7号館16 階会見室で三浦監督局保険課長、赤井企画市場局保険企画室長が出席し、同日公表した『損害保険業の構造的課題と競争のあり方に関する有識者会議報告書』(I.はじめに II.顧客本位の業務運営の徹底 1.大規模代理店に対する指導等の実効性の確保 2.代理店手数料ポイント制度 3.保険会社による保険代理店等への過度の便宜供与等の制限(1)保険代理店等に対する便宜供与の適正化(2)保険代理店への出向等の適正化 (3)入庫紹介の適正化  4.乗合代理店における適切な比較推奨販売の確保 5.保険代理店の兼業と保険金等支払管理部門の独立性確保等 III.健全な競争環境の実現 1.競争環境の歪みの是正(1)共同保険のビジネス慣行の適正化 2.損害保険会社における態勢の確保(1)適切な営業推進態勢の確保(2)適切な保険引受管理態勢の確保  3.企業内代理店のあり方 IV.その他の論点  1.特別利益の提供の禁止 2.個人の保険契約者に対するリスクマネジメントのインセンティブ付け3.企業のリスクマネジメント意識の向上 V.おわりに)に関する記者ブリーフィングを行った。
 今回の「損害保険業の構造的課題と競争のあり方に関する有識者会議」(座長・洲崎博史同志社大学大学院司法研究科教授)については、当初から短期間の論議で成案が得られるかを疑問視する向きもあった。
 主な論点は、①副業保険代理店に対し兼業禁止規定を盛り込むことができるか、②保険代理店の手数料ポイントにおける公平かつ適正化が図られるか、③企業内保険代理店の明確な位置付けが講じられるか、④共同保険の組成を国際基準で構築できるかなどだった。
 保険代理店の兼業禁止規定は案の定、顧客利便の観点から兼業禁止は見送られ、国際基準に追いつく機会を失った。会議のメンバーを見ると、弁護士と大学教授らの学識経験者が過半を占めた。いわゆる実務者は不在で、論議は終始深まりに欠けた。少なくとも、大型乗合保険代理店及び専属保険代理店からヒアリングを行い、保険代理店における手数料ポイント体系のどこに欠陥があるかを確認し質すべきだった。
 また、企業内保険代理店の独立性が担保されないとき(手数料収入に重き置く=系列企業に負担を強いる)、企業内保険代理店は廃業が妥当と思われるが、そうした議論には至らなかった。企業はブローカー(保険仲立人)等を活用し、適正な保険手配を行うべきといった指摘も出なかった。
 共同保険の組成について、ある専門家に成案を問うと、「欧米の共同保険の実態は、とくにアメリカでは高額の企業保険は、ELC(超過損害額再保険特約)にしたうえで、レイヤリング(責任額を数次の責任層に区分する)を行い、ブローカーが各レイヤーを保険会社にオファーするため、共同保険にならないケースが多い。もちろん、1つのレイヤーを複数の保険会社が共同で引き受けることもあるが、レイヤーを100%引き受けた保険会社が再保険を購入する方法が一般的か」といった回答が寄られた。
 さらに、「今回の有識者会議の話しを聞いていると、結局欧米市場の実態を正確に確認しないまま、井戸端会議であれやこれやと言っている印象である。参考にしようとしている欧米市場の実態を知らない人たちの集まりでは、結論の有効性は推して知るべし」と手厳しい。
 今後、金融審議会のWGで共同保険の枠組み作りや企業内保険代理店のあり方等を論議する際には、実務者を交え、慎重かつ深みのある論議が欠かせない。