『小金井通信』 2024年5月

●金融庁監督局保険課、5月24日に「損害保険業の構造的課題と競争のあり方に関する有識者会議」第3回会合を開催、①企業保険分野における適正な競争環境、②適正な営業推進態勢及び保険引き受け管理態勢等、③企業内保険代理店をめぐる構造等について討議した。次回第4回は6月7日に開催する。
(取材・小柳博之)

 金融庁は5月24日10時から、中央合同庁舎第7号館12階共用第2特別会議室で「第3回損害保険業の構造的課題と競争のあり方に関する有識者会議」(座長・洲崎博史同志社大学大学院司法研究科教授)を開催、会議の模様をYouTube配信した。
 第3回会合は、三浦知宏保険課長の事務局資料(1.保険料調整行為事案で認められた課題/相関図及びⅡ.課題への対応策/1.企業保険分野における適正な競争環境、2.適正な営業推進態勢及び保険引き受け管理態勢等、3.企業内保険代理店をめぐる構造)の概要説明に引き続き、柳瀬典由慶應義塾大学大学商学部教授の『日本企業の保険リスクマネジメントに関する実態調査』(日本企業の所有構成/日本企業のグローバル化の加速/ガバナンス改革と投資家への説明責任)に関するプレゼン、増山啓委員(三菱重工業事業リスク総括部リスク管理リスクマネージャー)の『三菱重工(MHI)における保険リスクマネジメントと企業保険を巡る諸課題への提言』と題するプレゼンを行ったのち、質疑に入った。
 増山委員は「かつてのMHIの保険引き受けは限度額や保険条件も別々、全体統制が取れていなかった。保険申し込みも保険求償も別々のため全体像が見えなかった。保険の重複や抜け漏れを防止するため、実態調査をお行った結果、賠償責任保険の保険証券だけでも全世界で400ポリシー余が発行されていることが判明した。MHIでは、海外M&Aを契機として買収先のグローバル保険プログラム制度を導入した」と明かした。
 MHIでは2017年度以降、経営会議メンバーを中心に据えた事業リスクマネジメント委員会を四半期毎に開催。事業リスク管理部、(アウトソーシングの)MHIビジネスリスクサポート、(欧州アフリカ、米州、中国、アジアパシフィックの)リージョナルリスクマネージャーが現場支援に当たる保険リスクマネジメント体制を敷き、グループ子会社全社を包括カバーする保険プログラム(①賠償責任保険:CGL、②役員賠償責任保険:D&O、③財物利益保険:PDBI、④輸送・保管保険:STP)を導入しワールドワイドにリスクヘッジする仕組みを構築している。
 第3回の論点は、①独占禁止法に抵触するリスクを低減する観点から、現在の共同保険のビジネス慣行における共同保険組成前に営業担当者間で行う様々な情報共有や、安い保険料を提示した幹事社の水準に合わせる特性をどう考えるべきか。こうした慣行を見直すにはどのような共同保険の組成の仕組みが望ましいか、②保険会社経営陣が営業担当者に対し、ボトムライン(利益)の改善とトップライン(保険料収入)の維持の両立を求めることをどう考えるべきか。営業担当者が、独占禁止法抵触リスクを低減しつつ適切な企業保険を提供するためには、どのような人事・業績評価などが望ましいか、③不明確な立場にある企業内保険代理店(損保会社の代理としての立場と企業の一部門としての立場を兼ねる)は、その構造を解消することが望ましいが、(保険代理店として存続する場合)独占禁止法抵触リスクに対処しながら実務能力の向上に取り組み、グループ外への募集を増やすなど保険代理店機能の向上を図るべきなど。
 最初に発言した中出委員(早稲田大学商学学術院教授)は、「共同保険は14世紀まで遡る長い歴史を有しており、制度自体に問題があるとは思われない。欧米では保険会社の数が多く、保険仲立人(ブローカー)がアレンジに当たる。(欧米では)共同保険は大規模物件で利用されるが、日本では1社で引き受けられるリスクでも共同保険が使われるケースが多い。その背景には、政策株の存在があると思われる。リスクの実態に応じて適切な保険手配を行うことが基本的な考え方であり重要である。日本では、幹事会社の保険料に非幹事会社が合わせる慣行があるが、入札では各社が一番よいと思う保険料を提示しており、本来、その意思に基づき共同スキームを構築すべきである。長期的な視野に立つと、保険料がばらばらであれば、そのばらばらに応じて共同保険を組成すべきである。
 一方、幹事会社は、膨大なロードを担うにもかかわらず、その報酬を請求しない慣行があり、幹事会社と非幹事会社間の負担の乖離が相当に大きい。こうした状況は改善するべきと思われる」と指摘。大手保険会社主導による企業内保険代理店による現行の共同保険のあり方を抜本的に見直すよう示唆した。
 また、1996年の保険業法改正の際、①特定契約の保険料の合計が50%を上回る場合は、自己契約の禁止に照らし問題がある。②その割合が30%を超えた場合には、損保会社はその割合を速やかに改善するよう保険代理店を指導する。……等々の『特定契約比率規制』が盛り込まれ、現在の監督指針上でも規定されている。
 このとき、1996年3月31日以前に登録した保険代理店は当分の間、特定契約比率の計算について経過措置を設定。その後、現在の監督指針上も規定されていることに対し、多くの委員から疑義が呈された。
 同経過措置は、火災・自動車・傷害保険のみから、全種目に拡大された際に設定されたが、近年の賠償責任・サイバー保険など新種保険の需要増加等の環境変化を踏まえると、撤廃が妥当」といった考え方に基づく。
 次回第4回会合は6月7日の予定。